対ロシアの強烈な金融制裁は深刻な景気後退を招く恐れ。ECB利上げ期待でもユーロドルに逆風

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対ロシアの強烈な金融制裁は深刻な景気後退を招く恐れ。ECB利上げ期待でもユーロドルに逆風
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ロシアをSWIFTから排除の衝撃!

天然ガスの輸入の50%を依存するドイツが最後まで反対

経済的、外交的結びつきが強いドイツとフランスが、ロシアに開戦を思いとどまらせるための対話を続けたが、水泡に帰した。
開戦後も、天然ガスの50%をロシアに依存するドイツが、ロシアのSWIFT(国際金融決済システム)からの排除(大手銀行に限定)を最後まで反対したが、国際協調のため諦めざるを得ず、別の手段を模索せざるを得なくなった。

影響が小さい米国、英国主導で過激な金融制裁

自前でエネルギーを賄える米国、英国経済に与える影響は現状のところ小さいため、過激な金融制裁推進の急先鋒となった。
米国バイデン大統領、英国ジョンソン首相とも、国内支持率の急落に悩む事態の打開のため、合理的な範囲を超えた過激な金融制裁に動いた可能性が高い。

しかし、そのあおりを受けてドイツを筆頭とするユーロ圏のインフレ率上昇、マネーサプライの急減少は確実で、景気後退入りの可能性が非常に高くなった。
強烈な物価上昇を伴うスタグフレーションである。

ロシア産エネルギーの輸出に関しては制裁対象外であるが

ユーロ圏全体でロシア産天然ガスの依存度は40%であり、原油を含むエネルギー輸出に関しては制裁を科さない方針が示されたが、ロシア大手銀行のSWIFT経由以外の決済手段で、エネルギーが十分に確保できるかどうか不透明である。

ユーロ圏全体でエネルギー価格、穀物価格の価格上昇圧力

ユーロ圏とロシアは、開戦前までは、持ちつ持たれつの発展的な経済圏を拡大していたが、この関係が断絶することで、ロシア側に壊滅的な損害が発生するとともに、カウンターパートのユーロ圏も同等の損失が避けられない。

ただし、幸いなことに、ロシアは現在のところ、天然ガスの供給停止については言及しておらず、ウクライナ開戦後も変わらず供給はあるとのことである。
ロシア版SWIFT(SPFS)経由やステーブルコイン(暗号資産)での支払いが行われる可能性も指摘されている。
【ステーブルコイン】テザー(USDT)のお蔭で、対ロシア金融制裁でもドル決済に困らない!? しかし、SWIFTという決済手段が失われたことにより、大量の原油が取引され、世界の穀物輸出の1/4を占める黒海貿易が滞っている事実は確認されており、世界的なインフレ圧力が強まりそうだ。

ユーロ圏のスタグフレーション入り懸念が高まる

足元のインフレ率上昇を抑えるためECBはタカ派にならざるを得ない

2日(水)19:00に発表のユーロ圏消費者物価指数(HICP)が前年同月比+5.1%の先月を大きく上回る可能性が高い(予想は+5.4%)ため、10日(木)のECB理事会では、量的緩和の早期終了⇒早期利上げに舵を切る可能性が高い。
【ユーロドル見通し】ECBは年内利上げ体制を整えるも、ウクライナ問題がどの程度影響するか?

もしそうならないのであれば、スタグフレーション懸念が原因ということになるだろう。

景気後退下の金融引き締めになる恐れ

金融引き締めペースより景気後退のほうが速く進めば、より深刻な事態を招く。

ユーロ相場は、ECBがタカ派でも、さほど上昇しない可能性

ユーロドルは一時的な上昇の見込みあり

シカゴ投機筋が、ウクライナ情勢悪化の中でも、ユーロ買いポジションを拡大しており、将来的なユーロの上昇に賭けている。
米国が利上げフェイズに入ると、ドル高の勢いは鈍るため、ドル売りの受け皿としてユーロドルが買われる可能性はある。

しかし、1.15の強力なレジスタンスがさらに強固になった印象で、安値からのショートカバーも跳ね返される可能性が高くなった。

ユーロポンドはじり安が続く可能性

英国の利上げペースが期待したほど性急には進まない見通しが台頭し、直近のポンド相場は軟化している。
しかし、上記のようなユーロ圏のファンダメンタルズの悪化を考慮した場合、景気後退懸念が強いユーロが売られ、ユーロポンドのじり安が進む可能性が高まったと思われる。
2019年12月の安値0.8277を更新する可能性も想定しておきたい。