米国雇用統計を無効化する29億ドルの鎖。160円を縛る「ガンマ・ピン」の正体

本日のテーマ

本日は金曜日、いよいよ21:30に相場最大のイベント
「米雇用統計」の発表を控えています。

メディアや多くの個人投資家は「今夜の指標結果次第で、ドル円は大きく動く」
と息巻いていますが、プロのクオンツ目線から冷や水を浴びせさせていただきます。

今夜の雇用統計は、余程の極端なサプライズ(NFPが20万人を超える、
あるいはマイナスに沈むなど)がない限り、
アルゴリズムが瞬間的に上下に振って終わる
「無風」で通過する可能性が極めて高いと見ています。

なぜなら現在のドル円は、単なる日米金利差だけでなく、
オプション市場が作り出した「強力なガンマ・ピン(Gamma Pinning)」によって、
159円~160円という狭い価格帯に完全に釘付け(スタック)にされているからです。

本日は、この相場を縛り付ける「見えない鎖」の正体と、
それがいつ決壊(エクスパンション)するのかを考察します。

上野ひでのり本日の視点

白日の下に晒される「巨額ストライク」のファクト

市場を縛り付けている「鎖の重さ」を、
海外ベンダーが配信している実際のデータ(一次情報)で確認しましょう。

本日6月5日(金)の23:00(NYオプションカット)に向けて、
以下の巨額ストライクが控えています。

159.00円: 20億ドル
159.90円: 9億8,700万ドル
160.00円: 13億ドル

さらに来週明け、6月8日(月)には、
160.00円に「29億ドル」という
桁違いの巨大なストライクが待ち構えています。

通常、オプション市場では10億ドルを超えれば
「相場を堰き止める強固な防波堤」として機能します。
20億ドル、29億ドルという規模は、異常なレベルの引力です。

IVの歴史的低下と「ガンマ・ピン」のメカニズム

これほどの巨額オプションが特定の価格に集中すると、相場はどうなるか。

オプションの売り手(巨大な金融機関のディーラーたち)による
「ガンマ・ヘッジ」が機械的に発動します。

彼らは自身が抱えるオプションのリスクを相殺するため、
期日が近づき為替レートが160円に接近すると、
「相場が上がればドルを売り、下がればドルを買う」という
逆張りのフローを巨大なロットで強制的に市場へ流し込みます。

このディーラーの防衛行動が分厚い壁となり、
相場が特定の価格帯に吸い寄せられて動けなくなる現象が
「ガンマ・ピン」です。

現在、1週間物のインプライド・ボラティリティ(IV)は5%台
という数年ぶりの歴史的低水準に沈んでいますが、
これは市場が安心しているからではありません。

「下値は米雇用指標と金利が支え、
上値は財務省の実弾介入(160円の蓋)への恐怖と、
ディーラーの巨大なガンマ・ヘッジが分厚い壁を作っている」という、
息の詰まるような板挟み状態にある証拠なのです。

いつ、このボラティリティは回復(決壊)するのか?

では、スタックしたドル円相場は、
どうすれば以前のようなボラティリティを取り戻し、
エクスパンション(決壊)へと向かうのでしょうか。

トリガーは以下の3つです。

1.雇用統計での「テールリスク」発現
ディーラーの巨額なガンマ・ヘッジの壁を物理的にぶち抜くほどの、
想定外のサプライズが起きること。

2.「時間の経過」によるオプションの消滅
本日23時のNYカット、
そして月曜日に控える29億ドルの巨大なストライクを通過すること。
この巨大な鎖(建玉)が消化されれば、
ガンマの呪縛から解放され、相場は再び動きやすくなります。

3.日本の通貨当局による「ブラインド・ハンマー(実弾介入)」
ボラティリティが極限まで低下し、
誰もが「今は動かない」と油断しているこの隙を突いて、
日本の通貨当局が160円突破の瞬間に巨額の実弾を撃ち込むこと。

今夜21:30の雇用統計は、
単なる「数字の良し悪し」を当てるゲームでは…

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