目次
本日のテーマ
米軍によるイラン施設攻撃の報道など中東情勢の緊迫化と原油高を受け、
インフレ再燃懸念から世界的な長期金利の急騰が発生しています。
昨日のNY為替市場において、
ドル円は159.50付近から一気に158.200まで急落する場面が見られました。
市場の大衆や一部のメディアは、慌てふためいて
「日銀のレートチェックか」
「覆面介入が行われたのではないか」と騒ぎ立てています。
しかし、値幅の小ささやボラティリティの質から見て、
実弾介入の可能性は極めて低いと言わざるを得ません。
この急落の「真犯人」は、当局の介入などではないでしょう。
昨日予告した通り、9月末(半期末)に向けて本格稼働し始めた
「巨大機関投資家(クジラ)による
歴史的なレパトリエーション(国内への資金還流)」の初期衝動が、
ついに為替市場の表面に現れ始めたと考えるのが自然だと思います。
上野ひでのり本日の視点
1.158円台への急落と「介入」という大衆の錯覚
ドル円が160円台に乗せた直後に158円台まで急落したことで、
「やはり160円は介入警戒ラインだ」という薄っぺらい解釈が蔓延しています。
直近1ヶ月で過去最大の964億ドル(約15兆円)を投じた7月末の日米協調介入では、
164円近辺から一気に約5%も急落しました。
それに比べれば今回の下落は限定的であり、
米財務省やNY連銀からも介入の事実は確認されていません。
メディアが不毛な犯人探し(介入の有無)に奔走している間、
プロのクオンツやマクロファンドは、
債券市場で起きている「不可逆な地殻変動」へと目線を移しています。
2.マクロの分水嶺:長期金利3%で「地銀は泣き、生保は笑う」
日本の10年国債利回りが1996年以来、実に約30年ぶりに3.0%台へと突入しました。
国債市場では「誰が買ってくれるのか」と悲鳴が上がり、
低金利時代に国債を買い溜めていた地銀などは
巨額の含み損(落ちるナイフ)に頭を抱えています。
しかし、これは市場の片面しか見ていません。
将来の保険金支払い(負債)という巨大な義務を負う
生命保険会社や年金基金にとって、
為替リスクゼロで3%(超長期なら4%台)の利回りが確定できる現在の日本国債は
「喉から手が出るほど欲しい聖杯(ホーリーグレイル)」です。
彼らのビジネスモデル(ALM:資産負債総合管理)上、
この水準の利回りが国内で手に入る以上、
リスクを取って外債に逃げる理由は消滅したと思われます。
今の日本国債は「買われない」のではなく、
彼らにとって「絶好の買い場(資金シフトの好機)」となっているのです。
3.証明されたレパトリのうねり:外債3兆円売り越しと国内回帰
この「巨大な資金還流」の仮説は、最新のデータによって裏付けられました。
ロイターの報道によれば、
日本の投資家は8月下旬までに海外債券をすでに3兆円も売り越しており、
これは2022年の債券暴落以来、最大の資金流出(米国債売り・ドル売り)です。
さらに、JPモルガン・アセットの調査でも、
日本の企業年金基金が「国内債券の保有を増やす計画の割合」が
2008年の調査開始以来で最高を記録しました。
高すぎる為替ヘッジコストと、160円という高値掴みのリスクを嫌気し、
日本の機関投資家は静かに、しかし暴力的な規模で
「米国債売り・日本国債買い(強烈な実需の円買い)」へと
アロケーションを大転換させているのです。
4.日米の金融政策も「円高方向」へ一致
この実需の円買いフローに追い打ちをかけているのが、
日米中銀のスタンスの決定的な変化です。
【日本側(タカ派)】
日銀の高田審議委員が「会合ごとの連続利上げもあり得る」と踏み込み、
0.25%刻みにこだわらない利上げ加速を強く示唆しました。
G20でのベッセント米財務長官による「日本の利上げ断固支持」が、
日銀の背中を押しています。
【米国側(ハト派)】
NY連銀のウィリアムズ総裁は「賃金インフレの波及は確認されていない」と
インフレ懸念をトーンダウンさせ、市場の過度な利上げ(引き締め)観測を牽制し、
ドル売りの流れを容認しました。
5.実践的戦術:160円は「介入の壁」から「実需(レパトリ)の壁」へ
大局の構造は反転したと思われます。
160円という水準は、もはや「当局が為替介入で一時的に守る壁」ではなく…
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