2023年9月12日(木)発表の米国消費者物価指数(CPI)は、想定通り総合CPIがやや上振れという結果になりました。前月の原油相場暴騰の影響、上流指標であるPPIの上振れから、そうなる可能性が高いことは事前にお知らせしました。
重要性の高いコアCPIは、ピタリ予想通りで前月より低下しました。ディスインフレが徐々に進行中という実態ですが、市場反応は根強いインフレを嫌気したような「米国債利回り上昇・ドル高・株安」になりました。
この値動きに騙されたメディアから「予想を上回るCPIはFRBのさらなる引き締めの動機になる可能性」という報道もありました。私は全然違うと思っていて、リアルタイムにX(Twitter)で違和感をお伝えしました。
大口の投機家が、FRB要人のハト派発言による「米国債利回り下落・ドル安・株高」というトレンドを、ほぼ予想通りのCPIの結果をもって「事実売り」で反落させた。このように考えています。
FOMCの11月1日会合の現状維持はほぼ間違いなく、今後のデータ次第で12月13日会合の利上げ確率が多少残るというコンセンサスが確定したので「事実売り」という意味です。
6日(金)の米国雇用統計でも、予想外の好結果でリスクオフの初動を見せた後、解釈をがらりと180度変えて、ポジティブな材料と転じ、週末の株価を押し上げたという例もありました。
大口の投機家が相場を動かすとき、その方向に資金を投じる明確な理由(材料)が必要になります。そのシナリオを読み解き、トレンドには絶対逆らってはいけないということだけ強調しておきます。
参考記事は下記の通りです。
【基礎の基礎】米国消費者物価指数(コアCPI)とPCEコアデフレーター
目次
FRBのハト派スタンスは織り込み済で今後しばらく材料視されず
FRB要人が利上げの代替となると述べた「米国債利回りの高止まり」が解消し急落すれば、再び逆の意味(FRBのタカ派転換懸念)で材料視されるでしょう。
マクロ経済指標としては、米国雇用統計やインフレ指標(コアCPIとPCEコアデフレーター)の過熱が確認されることで材料視されます。しかし、11月3日の10月雇用統計が発表になるまで相当な時間がありますし、その直前の1日にFOMCの結果発表もあります。したがって、今後しばらく相場を動かす要因にはなりにくいと思います。
余談ですが、ブラード前セントルイス連銀総裁が「6.5%までの利上げが必要となる可能性」と述べましたが、ほとんど材料視されませんでした。2022年のFOMCの投票権を持っていましたが、極端なタカ派で知られるお騒がせ男です。
週末に最も大きく材料視されたのは地政学的リスク
日足のローソク足がWTI原油先物、黒い太線がGOLD(XAU/USD)です。
画像かテキストリンクをクリックすると、より詳細なチャートが別画面で開きます。
米国CPIを無難に通過し、FRBのハト派スタンスも確認したため、次の材料は何になるのか?常に考えることが私たちトレーダーにとって最も重要です。いつまでも古いシナリオに囚われていると、真逆のポジションで大損失が発生するリスクがあります。
週末のNYタイムで最もクローズアップされたのは、中東情勢でした。その結果、上記チャートのようにWTI原油先物(5.0%高)とGOLD(3.4%高)が急騰した訳です。イスラエル・パレスチナでの戦闘激化が懸念されるのに、何の対策も打たずに週をまたぎたくない意図があったと思います。
地政学的リスクを嫌気したリスクオフということですが、株式相場ではハイテク株が売られNASDAQが1.23%の下落になったものの、ダウ平均株価はやや上昇、S&P500指数はやや下落と、さほど大きな動揺はありませんでした。
「Fear&Greed Index」は29の「FEAR」であり、前日の35から悪化しましたが、さほど気にする必要はないでしょう。
金融セクターの第3Q決算発表が開始になり、JPモルガン、シティーグループはかなり好調な業績でした。全セクターおしなべて堅調な業績となる見込みで、株価の下支えになる可能性が高いと思います。
地政学的リスクの最悪シナリオはイランとの軍事衝突
イスラエルは、ガザ地区でハマスと激しい戦闘が続き、北のレバノン国境でヒズボラの攻撃を受け、二正面作戦を余儀なくされる状況です。ハマスに武器や物資を提供しているのはイランであることは間違いありません。
詳細は下記の記事の通りです。
【イスラエルがハマスに宣戦布告】WTI原油が再び暴騰する可能性は低いか?
「イスラエル(米国)がイランを攻撃すると様相は一変する」という最悪のシナリオをイメージして、週末の相場が動いた可能性が高いでしょう。
バイデン大統領による60億ドルのイラン資金の凍結解除が引き金に
2023年8月に合意され9月に実施されたイラン資金60億ドル(9000億円)の凍結解除が、ハマスの大規模攻撃の原因になっていることは、ほぼ間違いないでしょう。イランに抑留されていた5名の米国人との交換で経済制裁の解除が実行されました。
地政学的リスクと米国政局不安定化のダブルパンチ
米国の陰謀論が大好きな人々は、米国の軍需産業の利益拡大のために行った信じています。イラン資金がハマスに流れイスラエルを攻撃することが分かっていて、あえて背中を押したということです。
さすがにそれはあり得ないでしょうが、バイデン大統領の判断が間違っていたと米国の保守派メディアは連日批判を繰り返しています。
2023年10月以降の暫定予算案成立を巡って下院議長は解任され、後任候補の選出を巡って米国政局の混乱が継続中です。11月中旬までに正式予算案を可決できる可能性は低そうで、政府機関一時閉鎖危機の再来となりそうです。
【まとめ】地政学的リスクより米国政局不安定化を嫌気したリスクオフに注意
地政学的リスクが拡大することにより、WTI原油先物が100ドルを超える暴騰となれば、インフレの悪化でさらなる金融引き締め懸念が台頭します。しかし、どんなに状況が悪化しても、イスラエル(ハマス・ヒズボラ)だけの問題に留まれば、その可能性は低いと思います。
イラン資金凍結解除を巡るバイデン大統領批判の高まりや米国議会の新予算案可決に向けての泥沼の政治抗争のほうがリスクファクターとしては大きいと考えています。ウクライナ支援予算が激しい対立の焦点になった訳ですが、さらにイスラエル支援予算まで加わると、収拾不能状態が続きそうです。
第3Q決算の好調が続く限り株価暴落のリスクは低いと思いますが、決算イベントを無難に通過後に、大きな落とし穴が待っているかもしれません。
そんな心配をしたくないというあなたは、「サヤ取り」を主体に取り組むのが無難です。
【サヤ取り最大のメリット】突発的な大暴落でも影響なし