日銀には物価安定義務があります。物価安定とは年率2%のインフレターゲットとされます。欧州中央銀行(ECB)も同様です。
米国FRBの特徴は「物価安定」に「雇用の最大化」を加えた2本柱であり、これを「デュアル・マンデート(Dual Mandate)」といいます。したがって、米国雇用統計が最重要なマクロ経済指標とされる訳ですね。
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FRBのデュアル・マンデート(2大責務)
FOMCの声明文に毎回決まり文句として示されています。
以下、2023年7月26日のFOMC声明文からの抜粋です。
The Committee seeks to achieve maximum employment and inflation at the rate of 2 percent over the longer run. In support of these goals, the Committee decided to raise the target range for the federal funds rate to 5-1/4 to 5-1/2 percent.
委員会は雇用最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す。これらの目標を支援するため、委員会はフェデラルファンド(FF)金利の目標誘導レンジを5.25-5.50%に引き上げることを決定した。
大幅利上げを繰り返しても米国雇用統計は絶好調
FRBは2020年3月に勃発したコロナ渦を乗り切るためにゼロ金利(0.00-0.25%)政策を継続しましたが、副作用として猛烈なインフレが襲い掛かり、2022年3月のFOMCでの緊急利上げに至りました。
以後2023年7月までに12回のFOMC会合があり、うち11回で利上げ(4会合連続の0.75%幅利上げを含む)を行い、現在の政策金利は5.25-5.50%となっています。
2022年6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比9.1%という未曽有の高インフレに陥り、その原因は原油高によるコストプッシュだけではなく、雇用市場のひっ迫による平均時給の急騰が深刻な問題としてクローズアップされました。
大幅利上げは、デュアル・マンデートのひとつ「雇用の最大化」を犠牲にする政策であり、雇用者数の減少・失業率上昇・平均時給の低下による物価安定を目論む異例の事態となりましたが、好調過ぎる米国雇用統計は現在も継続中です。
ターミナルレートは5.50-5.75%で、あと1会合0.25%の利上げで完了
インフレ率は概ね3~4%台での高止まりが相当期間続きそうであり、長期的な2%目標の達成時期は不透明なままですが、利上げの終わりは見えています。
足元では急激な原油高が悩ましい状況であるため、11月あるいは12月の会合で追加の0.25%利上げを行って利上げフェイズ完了となりそうです。
2024年の利下げ着手は大幅に後ずれする可能性大
好調過ぎる雇用環境の継続により、人件費の上昇が原因のインフレが継続中であり、原油高が追い打ちをかけて再び消費者物価指数(CPI)が急反発する見通しです。
したがって、ターミナルレート5.50-5.75%に到達後も、しばらく高金利の水平飛行が続きそうで、利下げ開始時期がかなり不透明になってきました。
利下げ先送り見通しによるドル高継続が想定される
2023年9月20日(水)のFOMCの結果発表について、利上げはなく現状維持の見通し(事前の織り込み99%)です。
同時発表の四半期「経済見通し」レポートのドットチャートで、2024年以降の利下げ開始時期の見通しが明らかになります。6月のレポートよりも利下げ開始時期の先送りが明確化されると、全面ドル高の反応が予想されます。
日銀会合の結果次第では円安加速、1ドル150円超を目指す可能性も
FOMCの結果予想については比較的見通しが立てやすく、事前に織り込みも進みやすいので、想定外のドル高が進行する可能性は低いと思います。
しかしながら、9月22日(金)の日銀金融政策決定会合の結果発表に絡んで、金融政策は現状維持、植田総裁の会見での発言もニュートラルであった場合、過激な円安の進行が想定され、当日中に一気に1ドル150円に到達する可能性もあるでしょう。
植田総裁は物価安定のためにタカ派なスタンスを示すか?
先日紹介した11日(月)の読売新聞の植田総裁独占インタビューにおけるタカ派発言は、物価安定の妨げになる円安阻止のために行ったと思われます。今週の記者会見でもタカ派なニュアンスを示す可能性が高いと思いますが、具体的なマイナス金利解除時期を示唆することもなく終われば、円の買戻しも一時的なものとなるでしょう。
植田総裁会見で円高となればドル円押し目買いのチャンス
財務省による為替介入について、1ドル150円未満で行う可能性は非常に低いものの可能性はゼロでないため、ドル円の押し目買いは145円以下を目安にするのが安全だと思います。可能性は低そうですが、植田総裁発言で145円を割り込むことがあれば大チャンスとなりますね。
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