ロシア・中東・中国の蜜月が原油相場の暴騰を招く

今回の原油高が一筋縄では解決しない粘着性の強い困った事象であるという点を掘り下げてお知らせします。その原因はウクライナ戦争がきっかけで、世界の軍事・政治・経済の分断と再構築が行われているからです。ロシア・中東・中国と米国・西側諸国の対立の構図が見えてきました。

前回の記事でお知らせした通り、原油生産国ランキングは下記の通りです。
1位米国、2位サウジアラビア、3位ロシア、4位カナダ、5位中国(以下、イラク、UAE、ブラジル、イラン、クウェートと続きます)。

ウクライナ戦争が米国の中東への無関心を加速

原油生産国の圧倒的1位は米国であり、サウジアラビアの約1.7倍の生産能力があります。それでも足りないため中東から原油を輸入しています。その利権があるため中東への軍事介入を続けた訳ですが、既にほぼ撤退を完了しています。比例して中東からの原油輸入も減少中です。
バイデン政権は中東情勢に関してさらに無関心になり、イエメン内戦に関してサウジアラビア支援を中立化しています。ウクライナ戦争勃発後、軍事的政治的焦点はロシアに(もちろん中国にも)向かっています。

利上げを乗り越え米国経済は2024年にソフトランディング

OPECプラス(OPEC=石油輸出国機構にロシアを加えた組織)は2022年10月に大型減産を発表し、その後も2024年末まで減産方針を維持する意向を示しています。もともとアフターコロナの景気回復期である2022年の原油需要の戻りが遅かったため減産必至ではありました。また、米国の地方銀行やクレディスイスの破たんなどの金融危機によるリスクオフで原油先物が売り込まれた結果、安値で採算が悪化したことも動機になっています。

大幅利上げ継続中にも関わらず、2023年は米国経済の堅調さが際立ち、2024年にはソフトランディングする可能性が高くなってきました。欧州も米国に追従するので、当然のこと世界的な原油需要も比例的に増加しています。
しかし、OPECプラスは減産を続けるのです。需給関係では説明がつきません。特にウクライナ戦争で疲弊しているロシアと米国との関係が冷えたサウジアラビアの意向を色濃く反映しています。以前の米国ならば強い増産圧力をかけたと思いますが、シェールオイルを国内で増産し中東からの輸入分を補っているため、欧州や日本より影響は小さいのです。

中国はロシア産原油を安く調達しサウジアラビアとの関係強化

ロシア経済の屋台骨は原油や天然ガスなどのエネルギー輸出ですが、ウクライナ戦争の制裁で西側諸国が禁輸に踏み切ったため中国に安値で引き取ってもらうことにしました。中国のロシア産原油輸入量は2023年3月に過去最高に達し、シェアも最大となりました。減産によって国際相場が高騰してもボリュームディスカウント継続でしょう。
また、ロシア以外の安定調達先として、サウジアラビアとの関係を強化、サウジアラビアとイランとの間の国交正常化にも貢献しました。サウジアラビアは米国から中国へのシフトを鮮明にした訳です。

ロシア・中東・中国の蜜月関係は盤石

ロシア・中東(≒OPECプラス)は、生産調整により原油価格を吊り上げ経済的なメリットを享受できます。最大の顧客である中国にはディスカウントするので不平不満は出ず、3者の蜜月関係は盤石となりました。
したがって、原油相場の値上がりに対し、インフレによる景気減速リスクを抱える欧米首脳は「需要が拡大するなかで減産拡大など前代未聞だ」と一斉に批判しましたが、OPECプラスは馬耳東風です。過去これほど欧米軽視のスタンスをとったことはありませんでした。

いちばん割を食うのは円安物価高に苦しむ日本の国民

ロシア・中東・中国の蜜月関係も、行き過ぎれば世界経済の減速を招くので、原油価格については高値の限界値を探ってくるでしょう。結果としてWTI原油先物の史上最高値147ドルに達するか否かは分かりませんが、100ドルを超えて上昇が加速することは間違いがないところです。

原油価格の高騰は日本の貿易収支の悪化につながり、さらなる円安物価高スパイラルが継続することになります。
円安による輸出増加で史上最高益を更新する日本の大手企業にとって、最大のコスト高要因である原油価格高騰は業績悪化を招く難題です。

しかし、それ以上に苦しいのは国民の生活であり、前回紹介したようなガソリン価格と最大需要期の灯油価格の高騰および派生的に起きるコストプッシュ型のインフレは、過去経験したことがないほどの過酷さになると覚悟すべきでしょう。

このブログでは、私たちの生活者視点で起こりつつある危機的な状況をお知らせしつつ、リスクヘッジのために危機の原因(円安、原油高など)自体をトレード対象として利益を上げていこうという立場で、日々情報をお届けします。

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