商品先物の限月間サヤ取りと石油のクラック・スプレッド

サヤ取りの原点は、株式ではなく商品先物であることをご存知ですか?
この記事では、商品先物のサヤ取りの定番である限月間サヤ取りと原油とガソリンのクラック・スプレッド手法を紹介します。
株式のサヤ取りより理論的で優位性が高いです。ぜひ挑戦してみてください。


「上野式サヤ取り」の原点は商品先物

私が2004年にサヤ取りを始めたときには、日本の商品先物専業でした。

ラリー・ウィリアムズを代表とする米国の著名トレーダーは、皆、商品先物(コモディティ)で巨万の富を築きました。

2010年までは、トウモロコシ、大豆、コーヒー、ガソリン、原油などをサヤ取りでトレードしていたのですが、現在はガソリンと原油中心になりました。

今回ご紹介する手法を使えば、出来高の小さい日本の商品先物市場だけでなく、CFDを使って、米国のコモディティ市場で勝負することも十分可能になるでしょう。

希代の大相場師・林輝太郎氏の「サヤ取り(鞘取り)」の分類と特徴

引用

サヤ取り利殖は、実行面から区別すると
(1)現物対定期のサヤ取り
(2)限月間サヤ取り
(3)市場間サヤ取り
(4)両外しサヤ取り(株では信用取引利用の銘柄間サヤ取り)
などの種類がある

一般的には(2)がサヤ取りの代表といわれる。(1)や(3)は主として現物問屋、ブローカー、取引員などがよく行い、(4)は相場師筋で行われている。

サヤ取りは利殖の終着点といわれ、山種証券の前社長である山種こと山崎種二氏はサヤ取りの名人であったし、イギリスの大富豪ロスチャイルドは、伝説では英仏戦争のとき、とうてい勝ち目はないとロンドン市場で株式や債券が暴落していたのを、ナポレオン敗るの報をいち早くキャッチし、安値を猛烈に買って一挙に巨利を得て基礎をつくった、といわれるが、事実は堅いサヤ取りを長期にわたって行ったからだ。

「脱アマ相場必勝法」1982年同友館刊 林輝太郎著

(2)限月間サヤ取りがサヤ取りの代表(4)両外しサヤ取りは相場師筋で行われているとのことですが、対象の相場は株式ではなくて、商品先物であるとご理解ください。
同書の事例も全て商品先物になっています。

サヤ取りの代表 限月間サヤ取り バージガソリン6番限×3番限

パンローリング社の「チャートギャラリー」で、バージガソリン(東京ガソリン)先物の6限月(げんげつ)の価格と6×5÷2=15種類のサヤが赤文字(逆ザヤを示す)で示されています。
先物には期限があり、納会までに反対売買でポジションを精算する必要があります。バージガソリンでは、限月が1か月ごとに6本あり6限月制となっています。

左側にチャートが示されていますが、2021年4月限(ぎり)から9月限(ぎり)までの6本の価格が、一目見て右肩下がりの逆ザヤ(バックワーデーション)であることが分かります

先物の世界では、期先(きさき)つまり、将来の価格のほうが高くなるのが通常で、これを順ザヤ(コンタンゴ)と呼びます。

なぜコンタンゴが通常なのか?

扱っているガソリンの品質も量も全く同じことは大前提で、ガソリン自体の6か月後までの価格変動ゼロだとすれば、購入資金の調達金利、現物の保管コスト等が発生し、期限が先になればなるほどそのコストがかさむため、価格が高くなります。

ところが、このチャートを見てください。完璧な逆ザヤになっています。
上記コストを上乗せしても期先になればなるほど安いということは、原油価格の先安観が支配的であるということです。

ともあれ、この逆ザヤ状態は、正常ではないというだけ理解していただければ結構です。


ここで、コンタンゴが継続すれば、必ず勝てる商品先物の「サヤすべり取り」という手法を紹介しておきます。

【サヤすべり取り】ロスチャイルド家繁栄の基礎。世界三大利殖のひとつで「サヤ取り」の一種

異常な逆ザヤ状態の解消を目論む限月間サヤ取りの拡大狙い

バージガソリンの異常な逆ザヤが解消する方向で相場が動くと確信したとします。
この場合、典型的な戦略としては、限月2つまたぎの6番限と3番限のサヤである「-1880円」が、プラ転(コンタンゴ)までいかなくても、これ以上逆ザヤが拡大することはないと判断したならば、「3番限売り-6番限買い」というポジションを建てます。期近売り、期先買いです。

仮に、「3番限1枚売り-6番限1枚買い」というポジションを建てて、サヤ「-1880円」が「-200円」まで拡大(正常化)したとすれば、1,680円のサヤが取れることになります。
バージガソリンの倍率(取引単位÷呼値)は50倍なので、1,680円×50倍=84,000円の利益になります。(※)

このトレードのポジションの丸代金は、(6番限55,320円×1枚+3番限57,200円×1枚)×50倍=5,626,000円となりますが、全く同じ商品の異限月を売買両建てにしていますので、リスクはかなり限定されます。

仮に6番限買い1枚だけの片張り取引ならば、55,320円×50倍×10%下落=276,600円の損失が発生することなど、特に珍しいことではありません
限月間サヤ取りであれば、6番限が10%下落すれば、3番限も同率近く下落しますので、大きな影響はありません。

バージガソリン1枚の証拠金は、約40万円です。限月間サヤ取りをする場合、2倍の80万円にはならず同額の約40万円です(リスクが低いからです)。
したがって、先ほどの例(※)では、約40万円の証拠金に対して84,000円と、非常に大きなリターンになります。

ちなみに、上野式サヤ取りで最重要の相関係数ですが、限月間サヤ取りの場合、もともと全く同じ商品なので、完全相関(1.00)に限りなく近くなります。

後ほど述べるガソリン-原油のクラック・スプレッドについても、連産品の特性から、完全相関に近く0.97~0.99くらいの高レベルです。

参考にすべき過去のサヤの値動き

さて、そもそも現状の逆ザヤ-1,880円が-200円まで戻る(正常化する)可能性はあるのでしょうか?

これは、「バージガソリン3番限-1番限」つまり、3か月ほど前からの相場の推移を示しています(過去の相場を参考にするためです)。3か月前もやはり逆ザヤでしたが、-200円程度でした。
仮にこの当時の軽い逆ザヤ状態まで、あと数か月で(3番限が納会を迎えるまでに)戻るのであれば、上記シミュレーションは大成功となります。

ともあれ、足元の原油価格が高すぎるのです。確かに過剰流動性のカネ余り相場で、WTI原油先物の期近(きぢか)が3か月前の45ドルから66ドルまで急騰していますので、このあたりがピークなのかもしれません。

WTI原油先物の期近上昇(逆ザヤ)の原因は、テキサスの大寒波で原油生産が壊滅的なダメージを受けていることが挙げられますが、世界の原油先物相場は連動しているので、日本でもこのような状態になっていると思います。

今後、足元の生産が安定して期近の下落、過剰流動性相場による先高感が台頭して期先が上昇してくれば、上記シミュレーションも成功に近づくでしょう。

原油とガソリンの「クラック・スプレッド」のサヤ取り

「クラック・スプレッド」とは、原油と連産品(ガソリン、灯油など)の価格差のことをいいます。

ガソリンや灯油は、原油を精製して製造されますから、精製コスト分だけ原油価格より高くなるのが当然です。

前述したガソリンの限月間サヤ取りで、相場先安観で逆ザヤになることがあっても、ガソリン-原油の価格が逆ザヤになることは絶対にありません

このチャートは、バージガソリンの限月間サヤ取りのときに示したものと全く同じです。着目点を変えるだけです。

以前「東京原油」と呼んでいた商品先物は現在、「プラッツドバイ原油」となります。

原油のほうも1か月ごとの6限月制をとっているので、最も先の未来、期先の6番限同士のクラック・スプレッドを見てみます。

12,700円となっていますね。
これが高いか安いかですが、原油の価格も逆ザヤで期先であればあるほど価格が安くなっていますので、精製コストであるクラック・スプレッドも十分に付加できていないようです。

このサヤブロックの対角線に位置する赤い囲み部分が1番限(納会間近の当限)同士のクラック・スプレッドなのですが、13,170円となっており、当限のほうが470円ほど高いです。

実需に支えられているので異常値が出にくく、理論的なサヤ取りができる

さて、今回は、銘柄間の「両外しサヤ取り」です。株式の銘柄間で行うのと基本は同じですが、原油とガソリンのサヤは、クラック・スプレッドであり、原油の精製コストとして釣り合っているかどうかでサヤの評価が変わります。

限月間サヤ取りのところで、コンタンゴが通常で逆ザヤは異常だから、いつかは正常に戻るだろうと考えるのは、妥当性があるでしょう。

一方、クラック・スプレッドについては、過去の相場を知らなければ、6番限同士の12,700円が高いのか安いのか判断ができません

ズバリ結論から申しますと、ガソリン-原油のクラック・スプレッドは、下限10,000円~上限16,000円と覚えておいてください。

  • 10,000円を割り込めば、拡大狙い
  • 16,000円を超えれば、縮小狙い
このようなサヤ取りは非常に成功率が高いと考えられます。

このサヤ取りは、単なる相場マターではなく、石油精製業者のビジネスの命運を握っているからです。

クラック・スプレッドが

  • 10,000円では、精製コストが安すぎて全く儲からない
  • 16,000円になれば、儲かり過ぎてニンマリ
このような関係になります。

商品先物市場というのは、もともと実需筋のヘッジ(先物の売り買いで、予め収益を確定させる)目的で存在しています。
したがって、現在の6番限同士の12,700円という相場も、実需の売買の結果として釣り合った相場と言えます。

実需に支えられているから、クラック・スプレッドには異常値は出にくい、理論的であると言えます。

1分で分かる10年分のクラック・スプレッド動画

パンローリング社の「チャートギャラリー」で表示した、2010年から2021年3月までのバージガソリン(東京ガソリン)6番限-プラッツドバイ原油(東京原油)6番限の2銘柄の値動きとサヤ(クラック・スプレッド)を1分で体験できる動画です。

最も期先の6番限ですが、6か月後には納会を迎えてしまうことから、このチャートは1か月ごとに新甫発会(しんぽはっかい)する最新の6番限をつなぎ続けたチャートになります。


いかがですか?
10,000円を割り込んだり、16,000円を上抜く期間はごく短いので

  • 10,000円を割り込めば、拡大狙い 原油売り-ガソリン買い
  • 16,000円を超えれば、縮小狙い ガソリン売り-原油買い
という戦略を基本とし、そこまで大きく外れなくとも、中間地点の13,000円を意識し、15,000円~11,000円くらいのレンジでの反転を狙って仕掛けると良いと思います。

損益計算は、ガソリンの限月間サヤ取りの計算に準じてください。
銘柄間のサヤ取りであるクラック・スプレッドのほうが値幅は取れます。

証拠金は、ガソリン40万円強、原油30万円弱ですが、売買両建てで70万円かかる訳ではなく、同一商品グループとして原油のほうは85%程度割引になります。
詳細は、実際にお取引をされるブローカーでご確認ください。

「限月間サヤ取り」と「クラック・スプレッド」 おすすめツール2選

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最近は、サヤ取りと言えば、個別株式の銘柄間サヤ取りばかりが注目されますが、ガソリン、原油のサヤ取りは非常に理論的であり、サヤ取りの王道と言えます。

上野ひでのり