欧州は、ロシアをSWIFT(国際銀行間通信協会)から締め出すことに反対していますが、バイデン大統領は強行するかもしれないです。(※)
しかし、仮に銀行間で送金できなくても、暗号資産で決済できるので実はあまり困らないのではないかという噂もあります。
ビットコインではなくて、ステーブルコインです。
テザーのUSDTがいちばん普及しています。
上野ひでのり
目次
SWIFT(国際銀行間通信協会)とは?
世界の200か国、11,000の銀行が参加
一日の取引件数は4,200万件という国際金融では必須の送金手段です。
過去、北朝鮮やイランをSWIFTから締め出したことがありました。
ロシア版SWIFT(SPFS)もある
ドイツ、スイス、ベラルーシ、アルメニア、カザフスタン、キルギスタンなどの計400行が参加していますが、十分な規模ではありません。
天然ガスは売り手市場。ロシア主導で決済手段を決められる
不完全なSPFSより暗号資産決済のほうが汎用的な可能性も
別に現金送金で決済しなくても、米ドルとペッグした暗号資産であるテザー(tether)を使用すれば目的は十二分に果たせます。
テザー(tether)とは?
Tether社が2015年2月から、イーサリアム、トロン(TRX)、Solanaといったブロックチェーン上で、USDTという単位の暗号資産を発行しています。
米ドルとの等価交換1USDT=1USDの相場を維持しています。
テザーは「ステーブルコイン」の代表選手
ステーブルコイン(Stablecoin)とは?
ビットコインのように最初から発行総数が決まっていると希少性が生まれ、価格が乱高下します。
ステープルコインは、運営主体が、ステーブルコインと同額の法定通貨を保有していることが前提になります。
それを担保として通貨の信用が維持される仕組みとなっています(※)。
ステーブルとは「安定した」という意味ですが、価格(交換比率)が変動しないので、そう呼ばれます。
発行量の上限は設けられておらず、Tether社に1米ドルを支払うたびに、1USDTが発行されます
取引所などがまとめてTether社に発行を依頼し、ユーザーに販売する流れとなっています。
(※)実際には、暗号資産を担保にしたり、無担保のステーブルコインも存在します。
テザーの時価総額と取引高
2022年2月25日時点
- 時価総額 $79,538,563,800(約795億ドル)
- 取引高 $41,333,108,204(約413億ドル)
テザーに関するリスクとは?
セキュリティが完全ではない
現状では、送金中や取引所に対する不正アクセスによる盗難を完全には防止できない仕組みです。
実際に、2017年11月に約3,100万USDTがTether社から盗難される事件がありました。
ブロックチェーン技術としては、イーサリアムをベースとして「スマートコントラクト」を実装することが計画されています。
第三者の仲介を要せず、プログラムにより契約や決済が自動的に実行されるので、ユーザー間の決済手数料は不要となります。
かつ、一連の手続きはブロックチェーンに記録されるので、改ざんは不可能で、格段に安全性が向上します。
カウンターパーティー・リスク
テザーは、現状では非常に安定した暗号資産ですが、価値を固定するためにTether社の強い中央集権体制で管理されています。
ビットコインで採用されたブロックチェーンは本来、技術的な思想は中央集権型でなく分散型ですが、テザーではステーブルコインとしての価値を固定化するために、中央集権的な管理が必要になるという二律背反性を含んでいます。
仮に経営者の不正(資金流用、横領など)が発覚したり、会社が破綻したりした場合に、一気に価値を失う可能性があります。
巨額な準備金が、本当に発行額と同額であるか、準備金にかかる利息をどのように会計処理しているのかなど、監査法人の監査が行き届いておらず、透明性に欠ける経営実態も指摘されています。
Tether社を管理、指導する公的な機関が存在しない
Tether社のオフィスは香港と米国にありますが、米国の連邦準備銀行に法定準備金を預託することは求められません。
USDTは法的な通貨でも、金融商品でもないので、その必要がない訳ですが、795億ドル分もの巨額な準備金が本当に存在するのか、適正に管理されているのか、1民間企業に依存する暗号資産は危うさを伴います。
また、ユーザーの身元確認が完全ではなく、マネーロンダリングに使用される可能性もあり、コンプライアンス上の問題点も指摘されています。
ロシアが今後、暗号資産での決済を推進するか?
現状でメインの決済手段にはなり得ない
ガスプロムという天然ガス最大手企業の年間売上高が2018年時点で10兆円をゆうに超えており、テザーの総発行額約9兆円(795億ドル)で賄うのは無理があります。
ロシア版SWIFT(SPFS)の拡大化
現在は400行規模に限られますが、天然ガスの最大手顧客であるドイツとの代金決済には問題ないのかもしれません。
今後も米国主導の経済制裁の効果を弱めるために、SPFSを拡大する可能性が高いでしょう。
ロシア独自のステーブルコインの普及を目指す可能性
テザーの規模まで成長させるのは長い道のりですが、1民間企業に依存するリスクは排除できます。
その他関連する論点
テザー以外のステーブルコイン
- USDC(USD Coin)
米ドル担保型のステーブルコイン
監査法人がステーブルコイン発行額と準備金が一致していることを検証していることと、決済サービス会社のCircleと仮想通貨取引所のCoinbaseが母体になっていることから、テザーより信用力が格段に高い。 - BUSD(Bainance USD)
米ドル担保型のステーブルコイン
2019年9月発行と比較的歴史が浅いが、NY連銀下で法規制を受けている。
毎月監査を実施し、裏付け資産のうち96%が現金となっているので安全性が非常に高い。 - DAI(Dai)
米ドルに連動する暗号資産担保型のステーブルコイン - UST(TerraUSD)
韓国製の米ドル連動型の無担保ステーブルコイン - JPYC(JPY Coin)
日本の法規制を遵守した形で発行される日本円と連動した担保型のステーブルコイン
USDC(USD Coin)が市場規模で猛追しており近い将来取って代わる可能性があります。
BUSD(Bainance USD)は、世界最大の取引所であるバイナンスが発行母体であり、バイナンスブロックチェーン上では取引手数料がかからないメリットがあります。
私個人的には、USDC(USD Coin)が汎用性に優れ、最も安全で将来性があると思います。
中国版SWIFT(CIPS)
103の国・地域の1,259行が参加しており、ロシアのSPFSよりも規模が大きく、日本、アジア、アフリカなどの外国銀行が参加しています。
基軸通貨米ドルの一極支配体制が徐々に崩壊か?
暗号資産の発展にあらがうことはできない
国際資金決済において、SWIFT経由では数日かかるところ、ステーブルコインでは一瞬です。
米国政府の思惑で資金凍結されたりすることもありません。
米国と覇権を争う中国とロシア
米国が支配するSWIFTを利用しなくても安定した国際資金決済を行えるインフラを整えている過程です。
銀行間ネットワークに留まらず、暗号資産を利用した対策も当然のこと考えていると思われます。
軍事力だけでなく、金融システムを制する国が次の覇権国になる訳ですね。
上野ひでのり