【基礎の基礎】米国政策金利(FF金利)と長期金利(10年債利回り)

相場を動かす変数(予定されたイベントやアクシデント)が複雑に入り組んでおり、シナリオが立てづらい日々が続いています。

紆余曲折がありましたが、結局のところ、米国景気はソフトランディングとなりそうで、株式を始めとするリスク資産は反発上昇に転じるシナリオが濃厚になりました。

直近10日以内に、相場を動かす変数として、下記のような事象がありました。

  1. 米国政府機関一部閉鎖の危機⇒つなぎ予算案成立で回避
  2. 米国10年債利回り(長期金利)が急騰で16年ぶりの高水準へ
  3. 米国雇用統計が予想を大幅に上回る好結果
  4. イスラエルとハマスの戦争勃発
米国雇用統計の結果が予想外に良ければ、ポジティブサプライズで株高という反応が通常です。しかし、足元では、年内残り2回のFOMCで追加利上げの確率が高まるため、リスクオフの株安という想定でした。
米国株は非常に重要なサポートラインを割り込んでいたためテクニカル的に暴落のリスクが高く、事前に警報を発しました。結果は予想を大きく上回り、初動は確かにリスクオフの株安となりましたが、マーケットでは米国雇用統計の解釈を変更して、株価は底入れ、大きな反発に転じました。

週明けには、中東の戦争がリスクオフの株安を招くリスクも当然あり、初動はその通りの反応でしたが、結局のところ週末の高値を更新。あとは12日(木)発表の米国消費者物価指数を無難に乗り切り、第3Qの企業決算が概ね順調ならば、再び年初来高値を追う可能性が高まります。

結局は米国の金利動向に振り回される相場なので、今回は2種類の金利の基礎の基礎について整理しておきます。

金利動向が相場を動かす

相場を動かす原動力は、金利動向です。日々、米国10年債利回り(長期金利)の変化を追いかけることになります。
一方、中央銀行(FRB)が決定するのが政策金利(FF金利)であり、FRB(12地区連銀)による民間銀行間の短期金利の誘導目標です。
つまり、短期金利はFRBが決定・誘導し、長期金利は市場機能により決定されるということです。

米国政策金利(短期金利)の動向はFEDウォッチツールをチェック

下記の記事で述べた通りです。
FOMCのFF金利見通しが相場を動かす【FEDウォッチツール】毎日確認しよう!

短期金利とは、1年未満の貸出で適用される金利です。銀行が優良企業に融資する際に適用される「短期プライムレート」がよく知られ、政策金利に連動して動きます。変動型の住宅ローン金利も短期プライムレートを参照して決定されます。
政策金利が上昇すれば企業の金利負担も増加するため、過熱した経済活動を鎮静化させる効果があります。住宅ローン金利も上昇するため、新規住宅着工件数は減少します。

短期金利が上昇すると、長期金利にも波及しますが、1年以上の長期は年限が長くなればなるほど不確実性(リスク)が増すので、長期になればなるほど金利が高くなる順イールドが通常です。

長期金利は10年債利回りのこと


画像かテキストリンクをクリックすると、より詳細なチャートが別画面で開きます。
上記の月足チャートのローソク足が米国10年債利回り、黒い太線が米国政策金利です。

米国債2年・5年・10年・30年物も1年以上の長期には違いありませんが、単に「長期金利」と言えば、「10年債利回り」のことです。債券価格が下落すると利回りが上昇するという逆相関の関係にあります。
FRBの政策金利(短期金利)の動向および将来的な景気の見通しと連動して動きます。企業に対する長期貸出金利や固定型の住宅ローン金利は、長期金利に基づいて「長期プライムレート」が設定され、信用力に応じて金利が上乗せされます。

上記のチャートでは、短期金利である政策金利が長期金利である米国10年債利回りを上回っており、逆イールド状態です。FRBの利上げの最終段階にあり短期金利がピーク、2024年から利下げが行われ中立金利(概ね2.5%)に近づいていくことを考えれば逆転現象は理解できます。

しかし、長期金利4.8%台は高すぎる

2023年10月の高値は4.887%となりましたが、これは2007年以来、16年ぶりの高水準です。
10年かけても中立金利に戻らないことは現実にはあり得ないのですが、タームプレミアム(長い年限の債券を保有するリスクが高いため投資家が求める上乗せ金利)が大きくなっているためです。

FRB要人が「タームプレミアムが利上げの代替になる可能性」に言及

10月6日(月)に、ジェファーソンFRB副議長とダラス連銀ローガン総裁が、「米国債利回り上昇が景気を一段と抑制する可能性」「タームプレミアムが上昇すれば、経済の鎮静化に向けた金融当局の仕事を一部肩代わり」などと発言しました。
要するに、FRBが政策金利の利上げをしなくても、市場で決まる米国債利回りが大きく上昇しているので、引き締め効果は十分であるという可能性を指摘した訳です。

FEDウォッチツールのターミナルレートは現状維持が濃厚に

上記2要人発言を受けて11月1日、12月13日のFOMCでの利上げ確率が急低下し、現状維持の5.25-5.50%がターミナルレートになる可能性が高まりました。
当日は、利上げ見送り観測が高まるにつれて、リスクオンの株高となった訳です。
この原稿を書いている時点では、年内利上げ確率は31%まで低下しています。

【まとめ】今後は長期金利の反落とFOMC現状維持の確率上昇でリスクオンか?

12日(木)発表の米国消費者物価指数(コアCPI)次第ではありますが、インフレが着実に鎮静化しているのであれば、追加利上げの必要はありません。
米国雇用統計においても、平均時給の漸減トレンドが確認されており、高賃金インフレもピークアウトしたと思われます。

長期金利が急反落し、FOMCの年内2会合で現状維持の確率が上昇するにつれて、リスクオンの株高となり、2024には米国経済のソフトランディングが確認できるという楽観的なシナリオをメインにしたいところです。その前に、コアCPIを見極めたいと思います。