下記の記事で言及した要因で、ドル円の上昇には一服感があり、円安も一定の歯止めがかかりました。しかし、本格反発には程遠い状況です。
【ハト派FOMCで円安危機に神風】長期金利は米国下落・日本上昇でドル円反落
ドル円レートだけを見ていても、本当の円の実力は分かりません。日銀が毎月データを更新している「実質実効為替レート」で現状を把握しましょう。
データが開示されている1980年1月以来、過去最低の水準を更新中です。44年来の低水準となりますが、実質的には50年前に逆戻りしたと考えれば良いでしょう。
目次
実質実効為替レートとは?
画像かテキストリンクをクリックすると、日銀の「時系列統計データ 検索サイト」が別画面で開きます。
日銀サイトのデフォルトでは、ドル円レート(逆目盛)も合わせて表示されます。しかし、ドル円相場は1980年1月の237.37円からスタートで、かつ目盛の最大値が固定相場時代の360円であり、相対的に近年の為替変動を小さく見せています。
「150円レベルの円安はわずかな変化」と意図的に誤読させようとしているのかと勘繰りたくなります。
ともあれ、実質実効為替レートのみを評価するのが今回の趣旨なので、ドル円レートは非表示です。
実質実効為替レートとは、貿易量や物価水準などを基に算出された通貨の購買力を測る総合的な指標です。通貨の本当の実力を示します。
円安・円高は、米国・中国・ユーロ圏・英国などの相手国との貿易量で加重平均された総合指標で評価すべきという考えで算出されるのが「名目実効為替レート」です。さらに物価上昇率を加味する(物価変動分を除く)と「実質実効為替レート」になります。
つまり、主に物価高の度合いの違いにより為替レートが変動している場合、名目は動いても実質は変化しないということです。
日本円の真の実力を評価する指標として、「実質実効為替レート」に勝るものはありません。
名目実効為替レートに近い「円インデックス」
ローソク足が円インデックス、太い黒線がドル円の月足です。
画像かテキストリンクをクリックすると、より詳細なチャートが別画面で開きます。
円インデックスは、CFDとしてトレードすることも可能ですが、ドル円を売買するほうが楽で良いと思います。
一目で分かる通り、完璧な逆相関です。
円インデックスは、リアルタイムで更新される名目実効為替レートという性質の指標であり、対ドルだけでなく総合的な円の強弱を確認するのに役立ちます。
第2次安倍内閣と黒田日銀発足以降、実質実効為替レートが急落
第2次安倍内閣は2012年12月、黒田日銀は2013年3月発足です。異次元緩和「黒田バズーカ」は2013年4月4日にサプライズ発射されました。
それ以降、実質実効為替レートは下がり続け、いまだに下げ止まることはありません。
日銀の責務は「物価の安定」ですが、輸入物価が制御不能な上昇となり、物価の安定には程遠い成果、むしろ逆効果となりました。
ドル円のレートが切り上がったとしても、実質実効為替レートに変化がないのであれば、円の実力は変わらないということです。しかし、比例して動くのが通常なので、ドル円の上昇を総合的な円安指標として置き換えても大きな間違いではないでしょう。
訪日タイ人観光客が訪タイ日本人観光客を上回った
2023年上半期(1月~6月)に日本を訪れたタイ人は49万7,700人で、タイを訪れた日本人32万6,347人を初めて上回りました。
両国の所得格差が縮まり、日本円とタイバーツの実力が拮抗してきたと考えれば良いでしょう。
50年前の日本は欧米に追い付き追い越せ、現状は東南アジアの発展途上国に追いつかれ追い越される過渡期なのかもしれません。
植田日銀は2024年から本格的に金融正常化
マーケットや政府からの外圧に負けて、金融正常化にかかる政策を苦し紛れに小出しにしている現状は評価できません。しかし、結果的には正常化に近づいているので致し方ないことなのかもしれません。
2013年の黒田バズーカ前に政策を戻せば、実質実効為替レートも反発上昇することは間違いありません。
とは言え、いきなり以前の水準に戻すのは難しいでしょうし、無理に戻そうとすれば、国民生活および企業経営に大きな痛みを強いることになるでしょう。
しかし、断固として金融正常化は成し遂げなければならないのです。