【米長期金利が株価暴落のトリガーになる?】有事でも金利上昇!不健全なタームプレミアムとは

今回のテーマですが、有事にも関わらず、米国債が不人気で、安全資産として資金の受け皿に全くならない理由について再考します。
米国長期金利(米国10年債利回り)が16年ぶりの5%の大台乗せから4.8%台に反落中です。しかし、近い将来、あるきっかけで5%超に暴騰(10年債が暴落)し、株価暴落の引き金になる可能性がありますので事前に警告を行っておきます。

このようなネガティブな記事では、「実現して欲しくない最悪シナリオ」について書いています。しかし、万が一にも示現した場合には私たちのダメージが非常に大きいので、頭の片隅には置いて欲しいという趣旨です。

米国債利回りの不健全なタームプレミアムとは?


ローソク足が10年債利回り、黒い太線が2年債利回りの日足です。
画像かテキストリンクをクリックすると、より詳細なチャートが別画面で開きます。

タームプレミアム(term premium)とは、文字通り「期間(ターム)」が長くなればなるほど、不確実性・リスクが増えるので、それに応じて上乗せされる性質のものです。満期が長い債券の利回りはタームプレミアムにより高くなる仕組みです。

したがって、2年債の利回りより10年債の利回りが上回るのが通常であり、これを「順イールド(Normal Yield)」といいます。「Yield=金利」です。
上記の画像を確認していただくと、10年債利回りが4.838%に対し、2年債利回りは5.067%です。

若干0.229%ほど「逆イールド(inverted yield)」になっていますね。2023年5月以降に逆イールドが拡大して、現在フラットに近づいているところです。
米国の政策金利は5.25-5.50%ですから、2年債利回りの5.067%は妥当な水準です。

10年債利回りの4.838%については、2023年5月以降急上昇して2年債利回りに接近し、逆イールドが解消しつつあります。逆イールドは景気後退のサインと捉えられるので、一見喜ばしい状況のようですが、実際は違います。

10年債利回りに乗っかっているタームプレミアムは、以下のように解釈されるからです。

  1. FRBの政策金利の不透明性に対して投資家が要求する上乗せ利回り
  2. 米国の財政懸念
健全なタームプレミアムではないので、以下、「不健全なタームプレミアム」と呼びます。

イスラエル戦争勃発により、初動こそ、安全資産として米国10年債が買われ、利回りは下落しました。しかし、その後すぐに、地政学的リスクより不健全なタームリスクを重視するスタンスに戻ってしまいました。

米国債AAA格はムーディーズのみ

米国債に最高格付けAAAを与えているのは、世界3大格付け機関では「ムーディーズ」だけです。同社は、新年度予算が承認されず政府機関の一時閉鎖があれば「信用にマイナス」と明言しているので、格付けにネガティブに反映されるはずです。

残る2社「スタンド・アンド・プアーズ(S&P)」「フィッチ」の米国債の格付けは「AA+」で、1段階下がります。前者は2011年8月に、後者は2023年8月に格下げを行いました。
特に前者の格下げ時2011年8月には、「米国債ショック」で米国債利回りは急上昇、株価は世界的に暴落となりました。

後者でもリスクオフに傾いたものの、第3位の格付け会社ということもあり、大きな混乱はありませんでした。しかし、「S&P」に並ぶ2大巨頭の一角「ムーディーズ」の格下げショックは、その比ではないと思われます。

11月17日(金)が運命のXデー

2023年9月30日(土)の深夜に、当時のマッカーシー下院議長(共和党)の超党派的調整により、11月17日(金)までの暫定予算がギリギリ成立し、政府機関の一時閉鎖は免れました。

10月3日(火)には、共和党の保守強硬派主導でマッカーシー議長が解任され、根強い対立が健在化しています。その後、多数派の共和党が3人の候補を擁立するもまとまらず、ようやく4人目のマイク・ジョンソン議員が議長に選出されました。
共和党の内紛により、20日以上の政治空白が生じたことになります。11月17日(金)の運命のXデーまでに新年度予算が可決するのは、非常に困難な見通しです。

米国企業の決算は好調だが、高金利が足を引っ張る

「新年度予算が決定しない=財政危機」ですから、当然ムーディーズが米国債を格下げし、「米国債急落=米国債利回り急騰」は間違いないところです。10年債利回り(長期金利)が5%を大幅に上回る状況になれば、米国のみならず世界の株式市場への打撃は計り知れません

米国企業の2023年第3Q決算は概ね順調なのですが、米国株価指数が明確に底入れしないのは、上記の「不健全なタームプレミアム=財政危機」の霧が晴れないからです。

FRBには制御不能な領域へ

2023年11月1日(水)のFOMCにて、利上げを行う可能性はほぼゼロです。パウエル議長以下、FRBの要人たちが口を揃えて「米国債のタームプレミアムの上昇が、利上げの代わりに金融引き締めの機能を果たしている」と述べているからです。

FRBが短期金利を利上げすることにより、長期債利回りに妥当なタームプレミアムが乗っかって順イールドとなります。しかし、2023年のイールドカーブは、短い年限の利回りが急騰し、長い年限の利回りが取り残される逆イールドが常態化しました。

最近、逆イールドが解消に向かっていますが、その原因は「不健全なタームプレミアム」なのです。「だからFRBは利上げする必要がない」というのは、「物価安定」を責務とするFRBの責任放棄とも言えます。「不健全なタームプレミアムが制御不能な状態なので、しばらく様子を見る」というのが実態に近いと思います。

2022年6月からFRBのバランスシート縮小(量的引き締め=QT)を開始し、同年9月からは毎月600億ドルの米国債を売却しています。急激な引き締めの副作用とも言え、政策が失敗した可能性もあります。

【まとめ】11月20日(月)から株価暴落の可能性も

ともあれ、ムーディーズが米国債の格下げを行えば、2023年8月のフィッチの格下げショックの比ではなく、2011年のS&Pの格下げによる「米国債ショック」の再現まで覚悟する必要がありそうです。

世界的に株価が暴落する可能性は非常に高いことを覚悟しましょう。しかし、企業業績が好調である限り、下げ続けることもないので、底入れ急反発も速いと思います。しかし、現在の株価水準まで戻すには、相当程度の時間が必要となるでしょう。

最新情報

2023年10月26日(木)ブルームバーグによれば「ジョンソン氏は今週、共和党議員に宛てた書簡で、交渉の時間を確保するため、年明けまで政府資金を手当てする暫定予算への支持を示した。」とのことで、Xデーは11月17日ではなく、年明けになる可能性もあります。
ただ、共和党内が一枚岩でまとまらない可能性も高く、予断を許さない状況が続きそうです。