【米国債の格下げ⇒株価暴落リスクは続く】下院議長のつなぎ予算案正念場

2023年10月1日(日)からの米新年度予算について、前日の9月30日(土)深夜ギリギリに、つなぎ予算が成立し、米政府機関の閉鎖は回避されました。
当時の米下院マッカーシー議長が、11月17日(金)期限のつなぎ予算を超党派で成立させたからです。

共和党の保守強硬派は、マッカーシー議長が「民主党と密約を交わした疑いあり」として、10月3日(火)に議長の解任動議を提出し、与野党の賛成多数で可決しました。
米下院議長は、大統領の継承順位が副大統領に次ぐ要職であり、下院議長の解任動議が可決するのは史上初の大事件でした。

予算案が成立しないのは、与党・民主党と野党・共和党の根深い分断が第一の原因です。
しかし、共和党内も一枚岩ではありません。解任動議を提出したマット・ゲーツ下院議員もマッカーシー前議長もトランプ支持者ですが、トランプ氏が訴訟対応で忙殺され、党内の支持基盤をまとめきれないため起こった内輪もめです。

その後、10月25日(水)にマイク・ジョンソン新下院議長が選出されるまで約3週間を要し、4人目の候補者でようやく決着しました。
ジョンソン氏は、2024年初までのつなぎ予算案を提案する意向を示し、いったん危機は後退したと思われました。

しかし、2回目のつなぎ予算もすんなり可決する可能性が低くなり、今週末まで予断を許さない状況になりました。
米予算が可決されず、米政府機関が閉鎖されることの最も大きなリスクについて、再度確認してください。

米政府機関の一部閉鎖による経済損失試算

米政府機関が一部閉鎖されれば、民間請負会社の売上損失は1日19億ドル(約2,870億円)となる見込みです。実質GDP(年率)を1週間あたり0.2%ずつ押し下げるなどの試算もあります。
2018年末から2019年始にかけて35日間閉鎖されたことがありますが、米国経済に大打撃を与えました。

米国債の格下げリスク


11月17日(金)期限のつなぎ予算の終了が近づいた10日(金)のことです。米格付け最大手の一角ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、最上位AAA格を付与している米国の信用格付けについて、見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げたのです。
「米議会の混乱が米国の債務支払い能力の低下をもたらす可能性がある」と断じました。

米議会の混乱が長期化すれば「AAA格からの格下げもあり得る」という警告と受け取って良いでしょう。

米国債AAA格はムーディーズのみ

米国債に最高格付けAAAを与えているのは、世界3大格付け機関では「ムーディーズ」だけです。

残る2社「スタンド・アンド・プアーズ(S&P)」「フィッチ」の米国債の格付けは「AA+」で、1段階下がります。前者は2011年8月に、後者は2023年8月に格下げを行いました。
特に前者の格下げ時2011年8月には、「米国債ショック」で米国債利回りは急上昇、株価は世界的に暴落となりました。

後者でもリスクオフに傾いたものの、第3位の格付け会社ということもあり、大きな混乱はありませんでした。しかし、「S&P」に並ぶ2大巨頭の一角「ムーディーズ」の格下げショックは、その比ではないと思われます。

運命のXデーは何度もやってくる

ジョンソン下院議長案が11月17日(金)までに可決されたとしても、2回目のつなぎ予算は2024年1月19日、2月2日の2段階で期限がやってきます。

ウクライナ支援予算に加えて、イスラエル関連予算など、与野党が相容れない議論について、何一つ進展していません。このままクリスマスシーズンを挟んだ越年交渉になったとしても、平行線をたどる可能性が高いと思います。

与野党とも、いたずらに議論を引き延ばして財政危機を招き、ムーディーズの格下げを宣告され、株価暴落などの苦境を招きたくない本音は共通するところです。
しかし、あまりにも与野党間および共和党内の分断が強すぎて、これを2か月でまとめるのは至難の業であろうと思います。

【まとめ】ムーディーズの格下げは世界経済に致命的な影響を与える

おそらく2回目のつなぎ予算はギリギリで、あるいは数日こぼれても可決されると思います。
しかし、2024年1月19日(金)が本当の正念場ですから、新年明けての、米国議会の攻防については注視してください。

現在保有中のリスクアセットのポジションにはヘッジをかける必要があるでしょう。今後、私からも具体的な方法を提案したいと思います。