【米国雇用統計】悪い結果が株価底入れのきっかけになるのはなぜか?

経済は足元の金利動向により動くのは、あなたもよくご存じですね。
あらゆる金融相場は、米国FRBの金融政策(政策金利・量的緩和あるいは引き締めの資産買い入れ策)に最も大きな影響を受けます。

FRBには2大責務(Dual Mandate)があり、FOMCの声明文にも毎回、念押しのため記載されています。

  1. 雇用の最大化(maximum employment)
  2. 物価の安定(price stability)
「物価の安定」については、インフレが鎮静化して「消費者物価指数(CPI)」の数字が下がれば、FRBの成果が明確で分かりやすいです。
「雇用の最大化」については、最重要経済指標である「米国雇用統計」で判断します。しかし、平常時における「ポジティブ」「ネガティブ」が現状では逆転しているので注意が必要です。

ヘッドラインの「【米国雇用統計】悪い結果」とは、雇用の最大化に対してネガティブな数字です。主要項目では「雇用者数低下」「失業率上昇」「平均時給低下」となります。
悪い結果が期待されているので、悪い数字(金融相場にとってはポジティブ)が発表された途端にリスクオンの株高になるという訳です。

直近の米国雇用統計で、なぜ悪い数字が期待されているのか?掘り下げて考えてみましょう。

2022年初からのインフレは制御不能で危機的な状況を招いた


まず問題となったのは、コロナ渦で世界的なサプライチェーンが機能不全に陥り、供給制約が発生したことです。
加えて、最悪のタイミングでウクライナ戦争が勃発し、エネルギー価格・食料品価格の急騰を招きました。このようなインフレはコストプッシュ型のインフレといいます。

コストプッシュ型のインフレを退治するために、2022年3月のFOMCから利上げに舵を切り、政策金利について、0.00-0.25%(ゼロ金利)から5.25-5.50%まで異例の速さで引き上げました。

労働市場のひっ迫という大問題が同時に進行した

「雇用の最大化」に関連して、米国政府がコロナ渦において手厚すぎる給付金の支給を行ったため、働かなくても生活できる国民が多数発生しました。
特に、50代半ばの労働者のアーリーリタイアメントを促進したのは確実で、労働市場はひっ迫(供給が需要を下回る)した訳です。

したがって、コロナ渦からの回復期に、どんなに新規雇用者数が増加しても十分ではありませんでした。
新規失業保険受給者数も低下の一途をたどり、働く意欲さえあれば、職に困ることはなくなった訳です。失業率は最低3.5%まで低下しました。

賃金インフレを招き、消費者物価指数を押し上げた

「労働市場のひっ迫」がどういう状態かと言えば、完璧な売り手市場です。したがって、人手を確保しようと思えば、高い賃金(時給)を提示するしかないのです。これにより、米国の賃金は急騰を続け、賃金インフレを招きました。これもコストプッシュ型インフレです。
賃金インフレは、生産コストを押し上げますし、賃金が原価に占める割合が大きいサービス業の価格は跳ね上がります。

好調すぎる米国雇用統計は特に「平均時給」という項目で著しい伸びを示し、賃金インフレが加速しました。

労働市場のひっ迫が解消しなければインフレも解決しない

「雇用の最大化」については、誰でも望みさえすれば好待遇の職を得られる状況になりました。したがって、FRBは十分に責務を果たしています。
しかし、いつまでも労働市場がひっ迫していては、賃金インフレが鎮静化しません。

需給ギャップが起こっている原因は、米国景気の急回復、好調過ぎる企業業績です。したがって、景気が多少悪くなっても構わないから労働市場の健全化を望むという流れになりました。

米国経済は依然として絶好調

2022年以降の米国の経済指標は絶好調、企業業績も過去最高レベルまで復帰し株価も超回復しました。
S&P500指数は2022年1月に史上最高値を記録しています。

FRBは、コロナ渦対策で、ゼロ金利政策および未曾有の量的緩和を行い、史上空前の過剰流動性(カネ余り)を提供しました。その結果が足元の好景気です。しかし、その代償として制御不能なインフレを招いてしまいました。大きな副作用です。

2大責務のうち「物価の安定」を最重視

早急に、過熱した景気を冷まし、人手不足が解消、賃金上昇が緩和という流れにならないと、高インフレが長引きます。
米国雇用統計にて、労働市場が緩和(発表された数字が悪化)のエビデンスが得られれば、FRBとしては、強力な金融引き締めの効果が出たと安どできるでしょう。
そうならない限り、FRBの金融引き締めは継続します。政策金利(短期金利)の利上げに限らず、長期金利のさらなる上昇もフルサイズのQT(量的引き締め)継続の影響です。

【まとめ】米国雇用統計が安定的に悪化すればFRBの金融引き締めも終了

消費者物価指数(CPI)の大きな押し上げ要因になった労働市場のひっ迫です。したがって、米国雇用統計が有意に悪化してくれないと、2022年3月から続けている未曾有の金融引き締めの効果が十分でないことになります。

米国雇用統計が安定して悪化しない限り、さらなる引き締めの必要があり、株価などリスク資産相場に大きな悪材料となります。
という訳で、しばらくの間は、米国雇用統計で悪い結果が出たほうが、株価の底入れ効果が高いということになるでしょう。