ドル円相場は、9月20日(水)に148円台に乗せて以降、為替介入の警戒感から2円の値幅内で1か月以上膠着しています。
10月26日(木)にようやく150円台に乗せ、高値は150.77となりました。
これでは、急激で過度な値動きとは言えず、「ボラティリティを滑らかにするスムージングの目的で行う為替介入」の要件を満たしません。
2023年9月23日(土)の記事を再読いただき、当時との温度差を確認してください。
ドル円為替介入の絶対防衛ラインは150円と判明
直近の1か月で、ドル円のボラティリティが大幅に下がってしまった原因は、財務省主導のメディア操作です。
明確に150円ラインを意識させつつ、10月31日(火)の日銀金融政策決定会合でタカ派の政策が出るニュアンスの印象操作を行ったからです。
10月20日(金)に臨時国会が召集され、23日(月)に岸田首相が所信表明演説で「物価高などに関する総合経済対策」を発表しました。円安物価高で国民の不満が高まり、支持率も低下しているところで、150円を超える円安を招きたくなかった事情は分かります。
本来であれば、日銀の専権事項である金融政策について政府が発言することはあり得ません。ところが、10月16日(月)に、神田財務官が「為替相場が激しく下落した場合に国は、金利を上げることによって資本流出を止めるか、為替介入で過度の変動に対抗する」と発言しています。
ともあれ、国民の支持を失い難しい政局運営を余儀なくされている与党のなりふり構わぬ円安防止策であると私は解釈しています。
その後も、「日銀内でYCC(イールドカーブコントロール)の再修正について議論している」「(2024年ではなく)次回の会合でマイナス金利解除もあり得る」などのリーク記事を書かせました。
あたかも「31日(火)にはタカ派の政策変更がある」という印象を植え付けたので、過度な円売りが加速することはありませんでした。
私個人的には、80%以上の確率で、31日(火)の日銀金融政策決定会合は現状維持だと思います。
あるいは、事前のリーク情報と整合性を取るために、限りなく現状維持に近いYCC微調整でお茶を濁すのかもしれません。
しかし、実質的に現状維持なので、いったんは円高に振れた後、急激に円安が進行すると思います。
この記事では、その理由を述べるとともに、結果を受けて示現するであろう大荒れのドル円相場について警告しておきます。
イスラエル軍のガザ地上侵攻が拡大化しているので「有事の円買い」が進行中です。日銀の声明文が発表になる31日(火)正午前後では、1ドル149円台以下の可能性もあり、不確定要素です。
目次
全ては政府主導、神田財務官の印象操作であるから
9月20日(水)に148円台に乗せて以降、鈴木財務相と神田財務官は口先介入を繰り返してきました。米国のイエレン財務長官にスムージング目的の為替介入の容認発言までさせています。
これにより、9月22日(金)の日銀会合が現状維持でも上値を押さえこむことに成功しました。
しかし、口先介入だけでドル円相場が大きく下落することもない訳で、上値を抑える効果しかなく、1か月間、均衡状態が続きました。
ボラティリティは低下している訳ですから、口先介入はできません。その代わり、メディアを使った印象操作を行ったと思います。
植田日銀は政府のプロパガンダに協力的
日銀の責務は「物価の安定」ですから、円安によるコストプッシュ型のインフレを招きたくないという点で、政府と同じ方向を向いています。
だからと言って、すぐにYCC撤廃、マイナス金利解除とはなりません。長短金利の急騰を招き、堅調な日本経済の成長の腰を折ることになるからです。
日銀は、ドル円レートや実質実効為替レートにつき、どんなに円安が進行したとしても、それをコントロールするのが責務ではありません。したがって、具体的な為替の水準についてのコメントはしないのが原則です。
実際の政策変更について、2024年にかけて徐々に正常化に向かうのは間違いないところです。政府は今すぐにでも円安を抑えたいと考えています。
この時間差について、どうせいずれ行うことだから、政府のプロパガンダは容認しようと協力的な姿勢です。
黒田日銀では絶対に考えられないスタンスで、植田日銀は政府との連携およびコミュニケーションが密接であると思います。
日銀金融政策決定会合の声明文と植田総裁発言に確約はないが…
前回、9月22日(金)会合の直前には、植田総裁自身が読売新聞の独占インタビューでタカ派なニュアンスを匂わせサプライズになりました。
しかし、会合の結果について、フォワードガイダンスを示し時期を確約することはできません。
ただ、前回の植田総裁会見では、コストプッシュ型のインフレについての危機感を隠すことなく、「年内のマイナス金利解除もあり得る」という含みを持たせることに成功したと思います。
実際は2024年春闘の結果を待たねばマイナス金利解除はできない
コストプッシュ型インフレの恐怖がいかに大きくても、10年以上続けた日銀の異次元緩和の正常化については、経済成長が腰折れしないように段階を踏む必要があります。
マイナス金利解除の条件が整うのは、2024年の春闘で大幅な賃金上昇を確認してからというのが妥当な判断だと思います。
YCCの柔軟化についても同様で、7月28日(金)の会合で決めたばかりの政策(10年債利回りの変動の上限を+1.0%まで容認する)を今回の会合で修正する可能性は低いと思います。
ちなみに、直近では0.892%まで上昇しています。仮に1.0%に達したら買いオペでその水準を維持したら良いだけです。
円安を食い止めるために、まだ一度も到達していない上限を、このタイミングで先回りして拡大する意味はないと思いますが、あえてやる可能性もゼロではありません。
今回は事前に盛り過ぎたので期待を裏切る結果になるのでは?
円安をすぐに食い止めたい意向の政府のプロパガンダと実際の日銀の金融政策には、タイムラグがある訳です。
今回の会合でのタカ派政策を期待している市場参加者は、期待外れの場合、強烈な円売りで反応すると思います。
既に9月の防衛ライン150円を上抜いてしまったので、日銀会合がきっかけで、最低でも152円をブレイクする大きな値動きが発生しない限り、為替介入の大義名分にならないと思います。
31日(火)15:30植田総裁会見終了後にドル円が152円突破か?
それでもスムージングが必要なほどの高ボラティリティとは思いませんが、いよいよ財務省は為替介入を仕掛けてくると思います。
昨年の規模に倣えば、152円⇒147~146円(値幅5~6円)程度のドル売り円買い介入になると思います。
【まとめ】為替介入を152円で見送ったなら、155円レベルでは確実に執行
「過度な変動を円滑化する」という大義名分の為替介入でないと、相手国の米国の承認を得られません。
拡大解釈すれば152円でも実行できると思いますが、本来は一気に155円に達するくらいの過度なボラティリティがないと駄目だと思います。
神田財務官は非常に有能な戦略家です。31日(火)に152円台で為替介入を行う流れは、もともと意識しながらメディアの印象操作を行っていると推測しています。
私の想定通りになれば、「150円台⇒152円台⇒147~146円台」という乱高下が示現すると思います。
くれぐれもお気をつけくださいね。
ただ、相手(米国)があることなので、155円くらいまで一気に円安が進行しないと実行できない可能性も想定しておきましょう。