FRBの過剰な金融緩和が終焉に近づき、次は「テーパリング」という量的緩和の縮小フェイズに入ることはご存知でしょうか?
この記事では、テーパリングから利上げに向かう時期を4つのステップで徹底解説するとともに、私たちがトレードを行う上で注意すべきことをまとめました。
目次
「テーパータントラム」を回避するFRBの慎重なテーパリング政策
テーパリング(Tapering)とは、現在FRBがコロナ渦のパンデミック対策として行っている量的緩和政策を縮小することです。出口戦略の第一歩です。
「taper(テーパー)」という動詞は、先細になる、徐々に減るという意味です。
「Tapered pants(テーパード・パンツ)」は、裾にかけて先細のスリムなスラックスのことをいいます(和製英語に近いですが、割とポピュラーなファッション用語です)。
米国の中央銀行であるFRBでは、米国債を月800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を月400億ドル、合わせて月1,200億ドル規模の債券買い入れプログラムなどの量的緩和政策を継続中です。
また、FF(フェデラルファンド)金利の誘導目標は、0~0.25%とされ、実質的にゼロ金利政策を行っています。
パンデミックが終息し、雇用と実体経済が回復するまでに、量的緩和の縮小(テーパリング)⇒バランスシート維持(再投資を繰り返す)⇒利上げというステップで金融政策を正常化させなければなりません。
その前に、「テーパリングの予告」という重要なステップがあるのですが、2008年のリーマンショックからの回復期の2013年5月に当時のバーナンキ議長が、何の前触れもない突然の予告を行い、金融市場が大混乱、乱高下を演じたことがありました。
いわゆる「バーナンキショック」です。「テーパータントラム」とも呼ばれます。
市場は、常に出口戦略の開始時期を知りたがっていますが、パウエル議長の直近の発言は下記の通りです。
- 「今は出口戦略について話すべきときではない(検討する時期ではない)」
- 「解除を早まらないよう注意することが、世界金融危機から学んだ教訓だ」
- 「パンデミックを乗り切ったと確認するまで政策の変更には動き出さないし、撤退を考えることさえしない」
- 「景気回復が進展したという実績が必要だ」
二度と同じ轍を踏むことは許されないので、パウエル議長はかなり神経質になっているのです。
世界三大中央銀行の大盤振る舞いによるバブル
米国のFRB(連邦準備制度理事会)、ECB(欧州中央銀行)、BOJ(日本銀行)の世界三大中央銀行が、量的緩和によって投入したマネーは、累計で1,200兆円以上です。
パンデミックにより失われた全世界のGDPは700兆円ほどと試算されていますが、はるかに上回る資金を予防的にばらまいているのです。
あまりに巨額なカネが行き場を失い、株式市場などに流入しています。
米国の主要株価指数は史上最高値の更新を続け、日本の株式市場も、日経平均が30年6か月ぶりに3万円の大台に乗せるなど、バブルに沸き立っています。
日本株を買っているのは、私たち日本国民ではなく、カネ余り、過剰流動性を背景とした外国人買いが主体です。収益性(PER)は将来的に不透明ですが、会社の解散価値(PBR)ベースで日本株は割安なので、投資対象としては非常に魅力的なのです。
パウエル議長の「テーパリングの予告」が、このまま先延ばしになれば、年内に日経平均4万円に達するという予測もあります。
「テーパリングの予告」により想定される相場への影響
パウエル議長がどんなに慎重に「テーパリングの予告」のタイミングや市場とのコミュニケーションのしかたを工夫したとしても、その予告を行った時点で、現在のカネ余り、過剰流動性が逆回転を始め、機関投資家の利益確定、保有資産縮小に繋がり、大相場が終焉を迎えることは間違いないでしょう。
しかし、それを上回るだけの強い雇用と経済成長、適度なインフレ率が達成されていれば、テーパリングショックは最小限で収まり、健全な成長軌道に乗せることが可能になります。
2021年3月17日のFOMC(連邦公開市場委員会)では、バイデン大統領が提案した1.9兆ドル(約200兆円)の新型コロナウイルス対策の財政出動の3月10日下院可決を受け、2021年のGDP成長率見通しを6.5%(前回4.2%)に上方修正し、早期景気回復に自信を見せました。
強い経済成長予測をアピールすることで、事前にテーパリングショックを和らげる布石を打ったと考えられます。
しかし、結果発表後の記者会見で、パウエル議長は慎重な姿勢を崩さず、下記のように述べました。
- 景気回復は想定よりも早い。ワクチンと財政出動で進展があったためだ
- (失業率が4%台に低下すると予測したが)雇用者数は危機前に比べて950万人も少ない水準だ
- (年内に物価上昇率が2%を突破すると予測したが)一時的なもので、政策目標の達成を意味するものではない
米国ではワクチン接種も順調に進捗し日常の生活をほぼ取り戻しつつあり、消費者物価指数の大幅上昇など、足元のインフレ懸念も高まっています。
2021年5月19日に発表されたFOMC議事録(4月28日開催分)では、「一部(複数のメンバー)はこの先の会合で資産購入ペース縮小の議論開始と予想」と明記され、初めて公式にテーパリング開始の可能性が示唆されました。
無風通過を想定していた市場はサプライズで受け止め、米国長期金利は上昇、ドル高、株価は下落(ビットコイン急落の影響もあり)の反応となりました。
FRBの金融政策正常化までの道のり予想
全世界で新型コロナのワクチン接種が進み、従来のような社会慣習が戻ってくれば、必ず経済は回復し、出口戦略が議論され、実行に移されることになります。
現在、多くの市場参加者が想定しているFRBの金融政策正常化までの道のりは下記の通りです。
ちなみに、2021年3月17日のFOMCの結果、2023年末までゼロ金利政策を維持することが再確認されました。
当日の主要米国株価指数は史上最高値を更新し、足元の米国長期金利の上昇を背景としたドル高の調整が入りました。
私たちがトレードを行う上で注意すべきこと
パウエル議長は、とても慎重に事を進めていくでしょうし、失言も絶対にしないでしょうが、FRBの他の理事、地区連銀総裁が個別に講演や会見を行う際に、個人的な意見として「テーパリング開始の必要性と時期」についてほのめかしてしまうことのほうが怖いです。
FOMCでの議論が一枚岩であるとは限りません。出口戦略を急ぎたいタカ派メンバーも一定数いるので、彼らの発言には要注意です。
実際そうなるかどうかは大きな問題ではなく、その時点で市場にショックを与えてしまうため、一時的な相場の乱高下が想定されるからです。
乱高下に巻き込まれて、保有ポジションにストップがついて飛ばされてしまうのが、最も恐れるべき事態です。
このような要人発言は、NYタイム日中に出てきますので、日本時間だと23時~28時くらいが危険な時間帯です。しかし、ほぼ私たちが寝ている時間帯なので、大きな影響はないでしょう。
場合によっては、NYタイムの夜=東京タイム前場の真っ最中に出てくることもありますので、講演の予定が分かる場合には、必ずチェックしておきましょう。
上野ひでのり
フラッシュクラッシュにも注意してください。
バブル崩壊型の暴落だけではなく、原因不明で瞬間的に起こる大暴落にも注意しましょう。為替相場では、2015年1月以来、5回も発生しています。
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