2021年1月、600ドルの現金給付を元手にロビンフッダーがゲームストップ株を1か月で17.3倍も暴騰させた騒動をご存知ですか?
この記事では、ロビンフッドというスマホアプリのユーザーが1,300万人を超え、1,400ドルの追加給付で再び大暴れの可能性について徹底解説しました。
目次
スマホ用アプリ「ロビンフッド(Robinhood)」とは?
「ロビンフッド」という米国のミレニアル世代(1981年以降に生まれ、2000年以降に成人を迎えた世代)を中心顧客とする金融サービスが大きな注目を集めているのはご存知の通りです。ちなみに、日本ではこのサービスを使用することはできません。
米国株の単元株式数は1株なので、もともと取引しやすいのですが、アマゾン(AMZN)株は3,000ドルを超え、ミレ二アルズには手を出しにくい値がさ株です。
ロビンフッドでは、1株未満の単位でも購入することができ、しかも手数料が無料です。
手数料が無料になる仕組みは下記の通りです。
オンライン証券会社であるロビンフッドが、豊富なユーザーベースを持ち、マーケットメーカー(HFTと呼ばれる高頻度取引会社)に顧客の注文情報を流すのと交換に、リベートを受け取れるという仕組みを構築したからです。
600ドルの給付金で、ロビンフッダーが巨大なバイイングパワーを獲得
米国政府は、2021年1月上旬に600ドルの現金給付を行いましたが、このタイミングで米国の主要株価指数が史上最高値を連日更新しています。
新規株式公開(IPO)株やテスラ(TSLA)などの人気株の急騰、低位株を買いあさる動きも顕著になりました。
ロビンフッドのユーザー(ロビンフッダー)は1,300万人を超えました。
ロビンフッドでは、信用取引で2倍のレバレッジをかけることが可能ですが、個別株式やETFの空売りはできません(オプション取引で可能なケースもあります)。
最大1,300万人、600ドルの給付金に2倍のレバレッジをかけたバイイングパワーは機関投資家をも圧倒しています。
米国個人の株式投資、トレードは買いだけ
日本の個人トレーダーには理解できないと思いますが、米国で株式投資、トレードといえば買いだけです。
一般の証券会社では、信用売りも受け付けますが、個人の資金レベルでは困難な状況です。
日本でも、対面取引時代には、現物株の取引歴5~10年以上、1,000万円以上の運用資金などの条件で、審査も非常に厳しく、個人トレーダーが個別株式の空売りを行うのは困難でした。
2000年以降にオンライン証券会社が続々と誕生した頃から、信用口座の開設のハードルが年々下がっていき、最近は電話での審査もなくなり、ほぼフリーパスな状況です。
日本では、小口資金でも、約3倍のレバレッジをかけた個別株式の空売りが可能なので、2020年3月以降のコロナ渦では、空前の空売りポジションが積み上がりました。
結果は踏み上げで損失を被ったトレーダーが多かったのですが、売り買いの両面張りできる自由度があり、日本の株式市場は、個人トレーダーにとって恵まれた環境であると思います。
米国個人はCFD取引(差金決済取引、いわゆるデリバティブ)が禁止されていますので、売買両方向で、相場の方向性に賭けるトレードとは無縁なのです(オプション取引では可能ですが、概念が複雑なのであまり利用されません)。
ゲームストップ(GameStop)騒動とは?
ゲームストップ(GME)とは、ニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場する世界最大のコンピュータゲーム小売店です。
ご承知の通り、オンラインゲーム全盛の現在、ゲームソフトのパッケージを実店舗に買いにいくという習慣は廃れ、コロナ渦が拍車をかけましたので、昨年来、危機的な業績不振が続いています。
ゲームストップの株価は、2017年頃は30ドル程度、2018年以降は20~10ドル台の値動きでした。
2020年のコロナ渦以降、ヘッジファンドの空売りが集中し、7月には4ドル割れまで売り込まれました。
その後、徐々にヘッジファンドが買戻しで利益確定に入りつつあった頃、暴騰したのです。
2020年12月31日の終値18.84ドル ⇒2021年1月29日の終値325.00ドル 17.3倍となりました。
上野ひでのり
ヘッジファンドがまだ空売りポジションを清算しきっていないタイミングで、巨大な買い注文が集中し、「ショートスクイーズ(踏み上げ)」状態となり、大損失覚悟の買戻しを余儀なくされました。
金融分析会社オルテックスによると、全ヘッジファンドのゲームストップ株での損失額は2021年初から推定125億ドルとなりました。
ロビンフッダーの手口とは?
業績不振株のこの暴騰劇は、市場関係者以外にも大きなショックを与えました。
ロビンフッダーがレディット(Reddit)のウォールストリート・ベッツ(WallStreetBets)という掲示板を介して、ゲームストップ買いのシナリオを提示したことが原因だと分かったからです。
「空売りでボロ儲けしているヘッジファンドを懲らしめよう」という意図は、事実上、買いしかできない個人の恨みを買ったとも言えます。
また、ゲームストップは、ミレニアル世代には子供の頃から特別な思い入れがあるゲーム販売店なので、それを空売りでおもちゃにしたヘッジファンドに対する怒りを増幅させた側面もあるでしょう。
ともあれ、「どの銘柄をいつ買うか」という要素を事前調整すれば、ロビンフッダーが、巨大なバイイングパワーで相場を動かすことができるという事実に驚愕した訳です。
取引停止措置、政治家の介入、ウォールストリートVS個人の対立構図
さて、この騒動には続きがあり、ロビンフッドではゲームストップを含む一部の過熱銘柄を新規購入できない取引停止措置が取られたのです。
突然の停止措置を受けて株価は急落し、個人から不満の声が上がりました。
SNSでは「ヘッジファンドを守るために、個人の買いを強権発動で停止した」との批判も広がりました。
このような世論に対し、民主党のオカシオ=コルテス下院議員は下記のようにロビンフッドを批判し、有権者に寄り添う発言を行いました。
「ヘッジファンドがいつでも自由に売買できる一方で、個人投資家は買いを妨害された」
ウォールストリートVS個人の対立構図は、経済格差問題から継続する根深い論点です
相場操縦、証券詐欺の疑い、今後の課題
その後、自称アマチュア投資家(実は証券業の免許を持ったプロ)キース・ギル氏が自身の利益のために掲示板を利用したとして証券詐欺で提訴されました。
ロビンフッダーが、一見、烏合の衆にしか見えない個人の集合体であったとしても、ゲームストップ株のように何かバズるテーマさえあれば、巨大な力を発揮します。
アマチュアとは限らない特定の個人によりロビンフッダーが相場操縦に利用される危険性も高まっています。
米証券取引委員会(SEC)が、個人投資家や証券会社への監視を強めていますが、過剰流動性相場が続く限り、今回のような騒動は大なり小なり続く可能性が高いでしょう。
バイデン政権下、追加で1,400ドルの給付金の支給が予定(年収15万ドル以下の世帯に限定)されており、ロビンフッダーのさらなる巨大化は間違いないところです。
健全な相場を維持しなければ、バブル崩壊の危機を招きかねず、市場参加者のみならず、全世界の国民が不利益を被ることになります。
上野ひでのり
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