こんばんは、上野ひでのりです。
マーケットは弱いところを徹底的に叩いてくる嫌らしい性格であり、弱腰の中銀に圧力をかけ政策変更を迫るのは日常茶飯事です。
2022年1月24日のドル円の安値113.48から、10月21日の高値151.94まで、9か月間で38.46円(33.9%)の上昇は歴史に残る円安ペースです。
大手機関投資家が円を売り続けたのは、日銀に対しYCC撤廃と政策金利のマイナス金利解除を要求し続けた結果と解釈されます。
「円安か利上げかどちらか選べ」という要求に対して、日銀は円安を選択したことになります。
しかし、上記のような極端な円安は全く想定外であり、財務省は2022年9月22日に24年ぶりの円買い介入に踏み切ることになりました。当日の高値は145.90、安値は140.35で、5円55銭の押し下げとなり、2.9兆円を費やしました。
その後は、10月21日(金)に5.6兆円、24日(月)に0.7兆円(両日通して6円41銭の押し下げ)です。
2022年は、計9.2兆円の未曾有の大規模為替介入となりました。
その当時の米国10年債利回り(長期金利)は4.335%(為替介入同日の10月21日が2022年の最高値)で、為替介入の直後に急落しました。財務省の為替介入が奏功した要素はゼロではありませんが、主に米国長期金利の急落により円安を脱出できた訳です。2023年4月6日には3.253%の安値をつけましたので、同日のドル円の安値は130.78で危機的な状況を脱していました。
しかし、ここから米国長期金利の一本調子の上昇が開始します。
ピークは10月23日の5.021%です。為替介入の脅しと日銀のタカ派政策のリーク情報が効いていたので、ドル円の高値は149.99止まりで、150円の警戒ラインをブレイクすることはありませんでした。
以上の流れに続く、10月31日(火)の日銀金融政策決定会合の結果を振り返っておきましょう。
目次
日銀金融政策決定会合当日の動き
当日の早朝に、日経新聞から「日銀、金利操作を再修正へ 長期金利1%超え柔軟に」というリーク記事が出ました。
事前の予想として下記の記事を公開しました。
【ドル円相場大荒れ警報】31日(火)の日銀金融政策決定会合は実質的現状維持を想定
私個人的には、80%以上の確率で、31日(火)の日銀金融政策決定会合は現状維持だと思います。
あるいは、事前のリーク情報と整合性を取るために、限りなく現状維持に近いYCC微調整でお茶を濁すのかもしれません。
しかし、実質的に現状維持なので、いったんは円高に振れた後、急激に円安が進行すると思います。
結果としては、「粘り強く金融緩和を継続する方針」と総括しているように、現状維持と言って良いと思います。
しかし、何とか円安も食い止めたいということでYCC(イールドカーブコントロール)の微調整も絡めてきた訳です。
結果として、植田総裁会見後からドル円は急騰し、昨年来高値151.94に肉薄する151.72の年初来高値をつけました。
日銀がYCCを柔軟化する必要が本当にあったのか?
財務省の為替介入(脅し)と日銀のタカ派政策(リーク)という2正面作戦でマーケットと攻防戦を続けた1か月です。
タラレバですが、日銀が全くブレなく「粘り強く金融緩和を継続」オンリーで、YCCの微調整もなしだったらどうなったか?です。私はおそらく為替介入が入った結果、150円未満の水準で乱高下していたと思います。
2023年7月28日の日銀会合では、10年債利回りの上限を「0.5%めど、1.0%程度まで許容する」とし、10月31日には「1.0%めどとして運用を柔軟化する」と、なし崩し的にYCCの寛容化を進めています。
日銀は円安に追い込めば何でも言うことを聞く
日銀とマーケットの攻防戦として捉えたときには、日銀は弱腰であり、円を売り続ければ何でも言うことをきくと思われたのは間違いないでしょう。
日経の最後のリーク記事が出た早朝こそ、148.80の安値をつけ、日銀に対してやや敬意を払った形にはなりましたが、ドル円の絶好の買い場(円の売り場)を提供しただけでした。
そして、ドル円は当日中に年初来高値を更新してしまう訳ですから、もうマーケットになめられているとしか思えません。
円安ファイターは財務省の役割
日銀はどんなにマーケットから催促されても泰然自若としていれば良いのです。円相場の水準(建て前としては、過度な一方通行のボラティリティ)の問題は財務省の為替介入だけに任せるということのほうが、今後さらにエスカレートする催促相場を招かずに済んだと思います。
2024年【日銀利上げでどうなる?】短期プライムレートと住宅ローン変動金利が上昇で苦しい
上記の記事で述べた通り、円安と高金利とどちらが私たちの生活にダメージが大きいかと言えば、間違いなく高金利だと思います。
いずれにしろ、2024年には金融政策の正常化(まずはYCC撤廃とマイナス金利解除)は不可避な訳です。外圧に負けてなし崩し的に実現させられるよりも、国民生活を守るためには、機が熟すのを待つだけの余裕が欲しいところです。
【まとめ】結局、円相場は米国長期金利の動向次第
2022年10月21日がピークで急落した米国長期金利ですが、財務省の為替介入のタイミングとピタリ一致したので、ドル円の急落はどちらの効果か勘違いしやすいです。繰り返しになりますが、米国長期金利の急落でドル安円高が進行しました。
今後仮に、米国長期金利の5%超えが常態化したとすれば、財務省と日銀がどんなに頑張っても円安を食い止めることはできないのです。
自分がコントロールできない問題を解決することはできません。
日銀の小出しにマーケットの要求に応え続ける弱気な態度では、次回12月13日の日銀金融政策決定会合の直前にさらなる円安に追い込まれ、またもやマーケットの要求に押し切られる結果になりそうです。
2022年と同様に、米国長期金利が急落する神風に期待するしかないかもしれません。