きな臭い【10/31日銀会合】岸田首相所信表明演説に向け神田財務官が暴走気味

2023年10月16日(月)の神田真人財務官の発言には驚きました。

為替相場が激しく下落した場合には、国は「金利を上げることによって資本流出を止めるか、為替介入で過度の変動に対抗する」と述べた。財務省内で記者団に語った。

出典:Bloomberg
為替の激しい下落時、国は「利上げか為替介入で対抗」-神田財務官

この発言直後に大きく円高に傾くことはありませんでしたが、23日(月)予定の岸田首相の所信表明演説に向け、1ドル150円突破は絶対許さないという決意表明だと私は受け止めました。
また、31日(火)の日銀金融政策決定会合がタカ派になるというイメージ戦略(後述)を併用することで、より実効性を高める狙いがあると思います。

国の税収は3年連続で史上最高を更新したのに、国民の生活はどんどん苦しくなる一方で、岸田政権の支持率の低下が止まりません。歯止めをかけるのは岸田首相の所信表明演説における「物価高などに関する総合経済対策」の具体的な「税収増の還元政策」次第ということになります。

23日(月)時点で、急激な円安ドル高が進行すると、水を差す結果になりかねないので、財務省は必死に地ならしをしているところだと思います。神田財務官が、日銀の独立性を無視した発言を勢い余って盛り込んでしまったのは、そういう背景がありそうです。

日銀の独立性を無視

日銀の独立性を無視しているのは、「金利を上げることによって資本流出を止める」という部分です。財務省の一役人の立場の発言ではなく、日本国政府の意向を代弁した形にはなっています。

しかし、日本銀行法第3条第1項では、「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない」として、金融政策の独立性について定められています。 また、同第5条第2項では、「日本銀行の業務運営における自主性は、十分配慮されなければならない」として、業務運営の自主性について定められています。
つまり、日銀は金融政策の運営にあたり、政府から独立した立場を法的に与えられている訳です。

故安倍元首相が在任中に「日銀は政府の子会社」という失言をしましたが、岸田首相も鈴木財務相も、日銀は政府の政策に従うのが当然であると思っているので、今回の神田財務官発言につながったと思います。

税収は3年連続で過去最高を更新

財務省(政府)が1ドル150円を超えるような円安ドル高を容認できないのは、コストプッシュ型の物価高で国民が苦しみ、批判の矛先が政府に向かうからです。
一方、日本国の税収は、リーマンショック直後の2009年の38.7兆円を底に右肩上がりで増え続け、2022年には71.1兆円まで激増しています。前年比6.1%増と3年連続で過去最高を更新しました。

税収増加の原因は下記の2点に集約されます。

  1. 企業業績の好調による法人税収の増加
  2. 歴史的な物価高による消費税収の増加
加えて、賃上げによる所得税収の伸びも確認されていますが、上記1.2.と比例的に伸びているとは言えないレベルの微増に留まります。

海外売上比率が高い大企業と内需型中小企業の格差と分断

税収増の2大原因は、大部分の中小企業と国民が苦しいと感じている円安ドル高と物価高です。

2022年当時、日銀黒田総裁は「円安について、総合的にはメリットのほうが大きい」と述べ、猛烈な批判を浴びました。しかし、2022年の大企業の好業績および税収が史上最高という結果的には間違っていませんでした。

しかし、大企業の内部留保は過去最高レベルに積み上がり、従業員には十分に還元されていない問題があります。それ以上に、内需に頼る中小企業および従業員の苦境はさらに厳しさを増し、賃上げの余力などありません。

日本の中小企業比率は99.7%であり、労働者の約70%は中小企業に雇用されています。大企業の株主と経営者の恩恵は過去最高で、従業員も2024年の春闘で大幅な賃金増を勝ち取るでしょう。
しかし、ほとんどの企業、70%の労働者に、円安ドル高の恩恵は全くありません。ここに、大きな格差と分断の問題があるのです。

「税収増の還元」には消費減税が最も効果的だが…

時限的に、10%の消費税を5%に減税するか、食料品など生活必需品にかかる消費税8%をゼロにすれば、家計負担が最も効果的に減少するはずですが、実現可能性はほぼゼロです。
定率の所得減税も、23日(月)の「物価高などに関する総合経済対策」に盛り込まれる可能性は低いと思われます(定額で一律控除はあり得るでしょう)。

9月の時点で、「賃上げや投資に取り組む企業の減税」は明言していますが、中小企業の大半は赤字で、もともと法人税を払っていないので、効果は限定的でしょう。
給付金、補助金の品目を増やすだけの付け焼刃的な政策が並ぶ結果になるかもしれません。

日銀の威を借る財務省。日銀も側面サポートか?

話を神田財務官発言に戻します。なぜ本来は日銀の専権事項である利上げについて語っているのか?です。
それは、大手投機筋にとって為替介入は一時的な効果しかなく、たいして怖くないので、脅しが効かなくなっているからです。

アルゴリズム売買を利用すれば、莫大な収益機会にすることさえできます。怖いのは財務省ではなく、日銀の金融政策の正常化(利上げ、量的引き締めなど)なのです。
米国を例を挙げれば分かりやすいと思いますが、「イエレン財務長官とパウエルFRB議長のどちらの発言が相場を動かすか?」ということでです。日銀よりFRBのほうが独立性が高いのでなおさらです。

という訳で、マーケットは日銀の金融政策変更を恐れているので、今後のタカ派転換について、日銀金融政策決定会合の声明文に明示したり、植田総裁の会見で言及したりはできないものの、それ以外の側面サポートは行う意向であろうと思います。

今後、日銀(関係者)からのリーク記事が増える?


10月17日(火)に下記の記事が公開された直後に、一気に円高が進行し、ドル円は瞬間的に1円の急落となりました。アルゴリズム売買が反応したと思われ、記事の内容に新味がなかったので、即買い戻されて往ってこいになりました。

出典:Bloomberg
日銀の24年度物価見通し、2%以上に上方修正の公算大きい-関係者

今後も、以前日銀関係者がコメントした内容の焼き直し記事や将来的なタカ派転換を匂わせるようなニュアンスの記事が増えると思います。

植田日銀はFRBに倣ってメディアを利用する傾向が強いことは、下記の記事で述べました。
【FRBのリーク記事担当】WSJのニック・ティミラオス氏をフォローしよう!

【まとめ】財務省と日銀の連携プレイが10月31日(火)まで継続するか?

日銀金融政策決定会合の声明文および植田総裁の発言は、前回の会合のスタンスを踏襲する可能性が高く、現状維持で間違いないところです。
したがって、円安ドル高阻止のための財務省との連携プレイとしては、上記の趣旨のリーク記事を書かせることくらいしかないと思います。

という訳で、植田総裁の記者会見が終了した時点から、一気の円安、150円突破、為替介入には要注意と考えます。
詳細は下記の記事をご覧ください。

ドル円が150円を再突破【為替介入のXデー】は果たしていつか?