直近の最大イベントは、2023年10月12日(木)21:30に発表される米国消費者物価指数(CPI=Consumer Price Index)です。
FRBのデュアル・マンデート(2大責務)は、「最大限の雇用(maximum employment)」と「物価安定(stable prices)」ですが、雇用の最大化は十分なレベルを超えて過熱状態のため、特に賃金インフレの原因の「平均時給」の上昇を抑えたい意向です。
一方、2%の「物価安定」目標には程遠く、2022年6月の消費者物価指数(CPI前年同月比)は「総合指数:+9.1%」とおよそ40年ぶりの高水準でピークを打ちました。2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻したことにより、原油価格・穀物価格などの上昇が著しく、エネルギーや食品を除く「コア指数:+6.0%」は同年4月のピーク+6.5%を下回っていました。
総合CPIはウクライナ戦争の影響が大きく振れ幅が大きいのに対し、コアCPIのほうが粘着性の高いインフレ指標で一気に収束しづらく、2022年10月に+6.6%を記録してようやくピークアウトしました。
総合CPIの前月比・前年同月比、コアCPIの前月比・前年同月比が同時に発表になりますが、「前月比」より「前年同月比」、「総合CPI」より「コアCPI」の重要度が高いと覚えておいてください。したがって、「コアCPIの前年同月比」が前回よりも減少するか、予想に対する増減を最重要ポイントとして結果を考察するようにしましょう。
目次
「総合CPI」は前年同月比+3.6%予想(前回+3.7%)
2022年6月のピークが+9.1%、今回の予想が+3.6%ということで、かなりインフレが鎮静化していると思われるでしょうが、これは「ベース効果」という現象で、昨年の上昇率が極端に高かったため、それと比べれば上昇が緩やかになったということに過ぎません。インフレはまだ2%を超える高いペースで進行中です。
9月にWTI原油先物が暴騰し、94ドル台の高値をつけた影響は総合CPIを押し上げる効果が高いと思われますが、前回よりも低い予想値となっています。
「コアCPI」は前年同月比+4.1%予想(前回+4.3%)
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コアCPIの動向を左右するのは、新車・中古車やアパレルなどの販売が分かりやすいところで、労働市場や金利市場の影響を受けて上下動が激しい分野です。
一方、「粘着性が高い」という原因は、コアCPIの約35%を占める住居費です。うち主たる住居の「家賃」は7.5%に過ぎず、最もウェイトが重いのは「帰属家賃」25.4%です。
「持ち家の帰属家賃」とは、自己が所有する住宅(持ち家住宅)に居住した場合には家賃の支払は発生しないものの、借家借間と同様のサービスが生産され消費されるものと仮定し、一般の市場価格で評価したものです。
米国で借家借間の家賃が高騰しているのはご存知のことと思いますが、持ち家の人にもその値上がり分を反映させるという計算方式のため、コアCPIは一朝一夕で下がる指標ではないのです。
しかし、2022年8~9月頃をピークに住宅価格は下落に転じ、家賃も漸減傾向にあります。しかし、契約の更新が1年毎という慣習から、物価下落として織り込まれるまでにタイムラグが発生するという特徴があります。そろそろ値下げが本格的に織り込まれる時期に差し掛かっていると思います。
FRBとしては、コアCPIを前年同月比+2.0%まで抑え込むことができれば、「物価安定」の責務を果たしたと言えるのですが、まだまだ遠い道のりと言えます。
FRBの正式なインフレ指標は「PCEコアデフレーター」
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CPIの発表は、対象月の翌月15日前後とされています。12日(木)に発表になるのは9月分のCPIです。
一方、FRBの金融政策のターゲットとなる正式なインフレ指標は「PCEコアデフレーター」です。こちらは、CPIに2週間ほど遅れて月末近くに発表になります。CPIのほうが速報性があるため、市場での注目度が高くなります。
どちらも、変動が大きいエネルギーと食品価格を除いた物価指標であることは共通であり、発表される数字に大きな違いはありません。PCEのほうが後から発表になるので、より正確な数字が出やすいとも言えます。
CPIは米労働省労働統計局の調査結果です。PCEは米商務省経済分析局(BEA)が発表する米国の個人消費者が実際に使った金額にもとづいて集計される個人消費の動向を表したデータであり、より信頼性が高いため、FRBが公式に採用しています。
前月は前年同月比+3.9%でした。次回は10月26日(木)21:30に発表されます。
生産者物価指数(PPI)はCPIの川上指標
インフレ波及の流れですが、まずは生産者物価の上昇によって発生し、その価格(原価)上昇分を卸売価格、小売価格に転嫁して消費者物価指数が上昇するという流れになります。したがって、PPIはCPIの川上に位置する指標です。
2022年の高インフレのピークでは、PPI(総合)が先行し4月に+11.5% ⇒CPI(総合)が6月に+9.1%という流れになっています。
2023年10月11日(水)に発表された総合PPI(前年同月比)の予想は+1.6%(前月:+2.0%)に対し結果は+2.2%、コアPPI(前年同月比)の予想は+2.3%(前月:+2.5%)に対し結果は+2.7%でした。前月よりやや下振れる予想を裏切り、上振れる結果となりましたが、相場への影響は特にありませんでした。
上述のベース効果が効いているものの、2022年の総合PPIのピーク+11.5%に対し+2.2%と、インフレがかなり鎮静化していることは明らかです。インフレ率がピークに近い時点で、予想を上振れすると、リスクオフで米国債利回り上昇・ドル全面高・株価下落の反応となりますが、現状では十分低い数値に収まっているため、相場への影響力が落ちています。
【まとめ】コアCPIが予想を下回るなら、FRBの年内利上げ確率がさらに低下する
下記の関連記事で述べた通りです。
【基礎の基礎】米国政策金利(FF金利)と長期金利(10年債利回り)
最近発表になるCPI(総合・コア)は、明らかにピークアウトして漸減傾向が続いており、サプライズで大きく上振れする可能性は低いと思います。気がかりなのは、総合CPIで9月の原油暴騰の影響がどの程度かということくらいです。予想を上振れ(インフレ悪化)した場合でも、PPI同様、相場に対するインパクトは弱くなっています。
コアCPIが予想を下振れして、着実なインフレ正常化が確認されれば、FRBの年内利上げ確率がさらに低下することになるでしょう。リスクオンで米国債利回り低下・ドル全面安・株価上昇の反応が想定されます。
現状では、物価指標は順調に落ち着いてきているので、米国雇用統計を始めとする労働市場の変化および長期金利(米国10年債利回り)のピークアウトのタイミングに注目点が移りつつあります。