先週の不安定な相場を乗り切り、週末入りした途端に新たな戦争が勃発しました。さらなる相場への影響も避けられない状況になり、びっくりしましたね。
国際政治は本メルマガのテーマではありません。再びWTI原油が暴騰、円安物価高で私たちの生活を苦しめるのか否かという点について考えてみたいと思います。
結論としては、ロシア・ウクライナ戦争とは違い、イスラエル・パレスチナは産油国でも穀物輸出国でもないので、昨年のようなコストプッシュ型の強烈なインフレを招く可能性は非常に低いと思います。
目次
イスラエルが50年ぶりに全面戦争の宣戦布告
イスラエルがイスラム原理主義組織ハマス(パレスチナのガザ地区が拠点)から前例のない大規模攻撃を受けました。イスラエルの死者は700人を超え、1973年にエジプトとシリアから攻撃を受けた第4次中東戦争以降最多となり、ハマスに対し50年ぶりに全面戦争の宣戦布告を行いました。
ハマスの戦闘員はガザ地区の人口220万人中、数万人程度と想定されます。イスラエルには徴兵制度があり、正規軍17万人(+予備役47万人)規模なので圧倒定期な戦力差があります。しかし、100人以上の国民を人質に取られていることから一筋縄ではいかなそうです。
ハマスをそそのかしたのはイランでほぼ確定
武器を与え、作戦を指揮したのもイランであろうと思います。イランは中国の仲介でサウジアラビア(以下「サウジ」)と関係正常化を実現したばかりであり、サウジが米国の勧めでイスラエルと国交樹立を実現するのは何とか阻止したかったはずです。
ハマスと正式に戦争を始めてしまったため、イスラエルとサウジの国交樹立は先送りになることが確実です。
サウジとイランは中東の覇権を争う大国であり、周辺国を巻き込んで中東諸国を分断させてきました。しかし、2023年3月10日に中国の仲介により外交関係を正常化することに合意しました。親米のサウジ、反米のイランともに、中国が原油輸出の最大顧客であることから無碍にはできなかった訳ですね。
米国とイスラエルの親密さは指摘するまでもありませんが、「米国(敵国)+イスラエル(ユダヤ教の敵国)+サウジ(ライバル)」の関係強化は、イランにとって不都合極まりない事態です。したがって、合意直前にハマスを扇動して潰しにかかったと思われます。
イスラエルとパレスチナの戦争は原油の生産に影響を与えない
2019年9月に、サウジの石油施設がドローンで攻撃され、生産が半減する事件が勃発しました。隣国イエメンの反政府武装組織フーシが犯行声明を出し、現在においてもサウジとイエメンの小競り合いが続いています。世界シェア5%相当が一瞬にして奪われた訳ですから、原油相場は一時的に暴騰しました。
一方、イスラエルとパレスチナは、原油の99%を輸入に頼る状況ですし、世界に輸出する穀物などの一次産品の生産地でもありません。したがって、どんなに今後激しい戦闘が繰り広げられても、原油相場が高騰する要因にはなりません。
イスラエル(米国)がイランを攻撃すると様相は一変する
イスラエル(米国)は、ハマスの攻撃がイランの後ろ盾があって行われたという名指しは現在のところ避けています。しかし即座に、米国が原子力空母ジェラルド・フォードを東地中海に配備を決定し、地中海の制海権を握る決断をしたことから、イランへの牽制であることは間違いないところです。
イランからハマスへの軍事支援の海上ルートを絶ったことから、ハマスは追い込まれます。地上ルートはイスラエル国内を横切ることから不可能です。
イランの目的がイスラエルとサウジの国交樹立阻止であるとすれば、これ以上の泥沼の戦闘は避けるでしょう。イスラエルとイランが軍事衝突となれば、イランはホルムズ海峡封鎖というカードを切ってくる可能性があり、世界的な原油輸送ルートが絶たれる可能性から、原油価格は暴騰間違いありません。
【まとめ】第三次世界大戦にもならないし、原油価格暴騰の可能性も低い
米国は、ウクライナ支援(対ロシア)に加えてイスラエル支援(対イラン)の二正面作戦を余儀なくされますが、その分、本来最も重視しなければならない対中国の軍備が手薄になります。
イスラエル支援について、イランとの全面対決を招いて泥沼化する余裕はありません。イランからの海上補給ルートを絶って、ハマスを早期せん滅させることで手を引くつもりだと思います。
第三次世界大戦は超大国の米国と中国の対決の構図で起こるはずですが、中東では反米のイランだけでなく、親米のサウジも中国に取り込まれつつあり、将来的に不安があります。米国の対抗策は、イスラエルと中東諸国との国交正常化です。2020年8月のUAEを皮切りに、バーレーン、スーダン、モロッコと実現し、盟主国サウジで総仕上げという構想が、一時とん挫を余儀なくされました。
とは言え、すぐにWTI原油価格の再暴騰や株価暴落を心配する必要はないと思います。